カップルカウンセリング、家族療法についての考え方

人間関係には「近い関係」と「遠い関係」があります。

近い関係では取引よりも信頼や相互作用が重要になりますが、そこに取引の考えが持ち込まれると関係はぎくしゃくしやすくなります。

今回は、人間関係を整理する一つの視点と、カップルカウンセリングでよく見られるすれ違いについて整理してみたいと思います。

人間関係を整理するための「同心円モデル」

人間関係を整理して考えるときに、私はときどき「同心円の図」を使って説明することがあります。中心には「わたし」がいて、その周囲に家族やパートナー、さらにその外側に友人や親戚、そして同僚や同級生といった人たちが広がっていくというモデルです。このように関係の距離を同心円で捉えてみると、人との付き合い方にはある程度の構造があることが見えてきます。人はすべての相手と同じ関係を築いているわけではなく、距離に応じて関係の性質が変わっているのです。

この図の重要なポイントは、中心から外側へ向かうほど、関係が限定的になり、ある程度の線引きが必要になるという点です。遠い関係では関わる範囲が限られ、役割や期待も比較的はっきりしています。例えば仕事関係であれば、責任範囲や報酬のような形で「何を提供し、何を受け取るのか」がある程度整理されています。このような関係では、ギブアンドテイクのバランスを見ながら付き合うことが自然に行われています。

一方で、すべての人間関係がこのような取引の感覚で成り立っているわけではありません。むしろ、中心に近い関係ほど、そのような単純な仕組みでは説明できなくなっていきます。関係の距離が変わると、人が期待するものや感じ方も大きく変わってくるのです。

外側の関係では「取引」の感覚が必要になる

外側の人間関係では、ある程度「取引」の感覚を持つことが現実的です。近年はギバーとテイカーという言葉で説明されることもありますが、人間関係の中には与えることを大切にする人もいれば、受け取ることを優先する人もいます。もし遠い関係の相手に対して、こちらが無条件に与え続ける形になってしまうと、結果として搾取の関係になってしまうことがあります。周囲の人がすべて善意で動くとは限らないため、一定の線引きが必要になるのです。

こうした線引きは、決して冷たいものではありません。むしろ関係を長く保つための現実的な知恵と言えます。責任や役割をある程度整理しておくことで、余計な誤解や負担を避けることができます。仕事関係や社会的な関係では、このような枠組みがあることで安心して関わることができる場合も多いのです。

しかし、この考え方をそのまま家庭やパートナー関係に持ち込むと、状況は大きく変わります。人間関係の中心に近い領域では、同じ仕組みがうまく機能しないことが多いのです。

近い関係では単純なギブアンドテイクが成立しない

夫婦関係や親子関係のような近い関係では、役割が重なり合い、生活の多くを共有することになります。家事、仕事、子育て、親との関係、趣味や休息の時間など、さまざまな要素が同時に絡み合います。そのため「どちらがどれだけ与えたか」を厳密に計算することがほとんど不可能になります。生活の中で行われている支え合いは、単純な交換ではなく、複数の要素が重なった形で成立しているからです。

仮に神様のような存在がいて、家事の量や収入、自由時間などを完全に公平に配分してくれたとしても、多くの人は自分の方が損をしていると感じてしまうかもしれません。これは人が客観的な公平よりも、主観的な満足を重視して関係を感じているためです。兄弟姉妹のいる家庭では、親ができるだけ公平に愛情を分けようとしても、「弟ばかりずるい」「兄ばかり得をしている」と感じられてしまう場面が少なくありません。

そのため近い関係では、厳密な平等を目指すことよりも、「あなたは大切な存在だ」という感覚が共有されることが関係を支える重要な要素になります。人は単なる公平さだけで安心するわけではなく、特別なつながりの感覚を必要としているのです。

近い人の幸せは自分の幸せにつながる

もう一つ大切な視点は、関係が近いほど相手の状態が自分の生活に直接影響するということです。相手が穏やかに過ごしているときには、家庭全体の空気も落ち着いたものになります。逆に相手が強いストレスを抱えていると、その影響は自然と周囲に広がっていきます。このような相互作用は、近い関係ほど強く現れます。

そのため夫婦や家族の関係では、「どちらがどれだけ得をしたか」という取引の感覚だけではなく、「相手が安心して過ごせることが結果的に自分の安心にもつながる」という視点が重要になります。この視点が育ってくると、関係の中での行動の意味が少しずつ変わってきます。相手のために行ったことが、結果として自分の生活の安定にもつながるという循環が見えてくるからです。

もちろん、この考え方は一方的な我慢を勧めるものではありません。関係の中でお互いが支え合う感覚が育っていくことが前提になります。どちらか一方だけが努力し続ける形では、このような循環は生まれにくいでしょう。

カップルカウンセリングで見られるすれ違い

現在、私はカップルカウンセリングに関わる機会も多くあります。相談に来られる方々の様子を見ていると、必ずしも深刻な対立が最初から存在しているわけではありません。むしろ多くの場合、小さな不安やすれ違い、あるいは過去に裏切られた経験などが影響して、現在の関係の中で起きている支え合いに目を向けにくくなっていることが少なくありません。

その結果、「自分の方が損をしているのではないか」「相手ばかり得をしているのではないか」という感覚が強くなり、パートナー関係の中に取引の発想が入り込んでしまいます。こうした認識が続くと、「自分ばかり頑張っている」という思いと「相手は理解してくれない」という思いが重なり、関係の中でマイナスの相互作用が起きやすくなります。

このような場合には、過去の体験が現在の関係にどのような影響を与えているのかを整理することがあります。もし過去の裏切り体験や不信感が強く残っている場合には、その体験の影響を和らげるためのトラウマケアを行うこともあります。過去の影響が強いままだと、現在のパートナーの行動を不信のフィルターで見てしまうことがあるからです。

また、現在の生活の中での負担や役割が偏っている場合には、家事分担や役割の整理などを通して現実的な調整を行うこともあります。ただし、それだけで関係が変わるとは限りません。重要なのは、二人の間にどのような相互作用が生まれているのかを丁寧に見直し、ポジティブな循環を少しずつ取り戻していくことです。

過去の体験が影響している場合

カップル関係のすれ違いの背景には、現在の出来事だけでなく、過去の体験が影響していることがあります。たとえば、過去に裏切られた経験や強い不信感、深く傷ついた体験などがあると、それが現在の関係の中でも無意識に再生されてしまうことがあります。すると、現在のパートナーの行動をそのまま受け取ることが難しくなり、「また裏切られるかもしれない」「どうせ自分は大事にされない」といったフィルターを通して相手を見てしまうことが起きます。

そのような場合には、必要に応じてトラウマケアを行うことがあります。過去の体験が現在の関係に過度な影響を与えている場合、まずその体験の影響度を少しずつ下げていくことが大切になります。そして、安心して関係を見直せる心理的な安全を作りながら、新しい関係のあり方を模索していきます。つまり、過去の影響を整理し、安全な状態を整えた上で、現在の関係を再構築していくという順番で取り組むことが多いのです。

現在のすれ違いを扱う場合

一方で、現在の関係の中で「取る・取られる」といった感覚のすれ違いが生まれている場合には、もう少し構造的な介入を行うことがあります。たとえば、どちらか一方が負担を抱えすぎていると感じていたり、役割が曖昧になっていたりすると、不満や誤解が積み重なりやすくなります。そのため、まずはできる限り公平性が感じられるように、家事の仕分けや役割分担、負担の見える化といった調整を行うことがあります。

しかし、役割分担を整えるだけでは関係が十分に改善するとは限りません。そこで重要になってくるのが、「相手の幸せを願うことが自分の幸せにつながる」という関係をどのように作っていくかという視点です。これは家族療法の考え方でも重視される点であり、関係の中でどのような相互作用が生まれているかに注目していきます。

たとえば、日常の中で感謝を言葉にすることや、相手の行動によって生まれた喜びを共有すること、相手が自分に与えてくれている良い影響を意識して認識することなどが挙げられます。こうしたやり取りが少しずつ増えていくと、関係の中にポジティブな相互作用が生まれていきます。カップル関係の改善とは、多くの場合、こうした小さな相互作用の積み重ねによって形づくられていくものなのです。

二人で相談に来ること自体が希望のサイン

カップルカウンセリングをしていて感じるのは、二人そろって相談に来ている時点で、すでに一定の希望が残っている場合が多いということです。本当に相手のことを全く考えられない状況であれば、そもそも二人で相談の場に来ること自体が難しくなります。多くのカップルは、関係を何とか良くしたいという思いを持ちながら来談されています。

その意味でカップルカウンセリングは、壊れてしまった関係を無理に修復する作業というよりも、もともと関係の中にあった良い循環を思い出し、それを再び育てていくプロセスと言えるかもしれません。人と人との関係は、完全に公平な計算だけで成り立つものではありません。互いの存在を大切に思う感覚や、相手の幸せが自分の安心につながるという実感が少しずつ積み重なっていくことで、関係はゆっくりと安定していくのだと思います。

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