共感が失敗するとき その3 感情をなぞるだけでは終わらない共感

共感というと、「気持ちに寄り添うこと」「感情を受け止めること」と教わることが多いです。
「それはつらかったですね」「怖かったんですね」などの“感情の反映”は、共感の基本スキルとしてよく知られています。
でも、この「感情の反映」だけでは、共感にならないことがあるというのをご存じでしょうか。
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Toggleラベルは伝わっても、共感にならない
たとえば、クライエントが深刻そうにこう語ったとします。
「ほんとに、もう…なんていうか、わからなくなってしまって……」
それに対して、支援者が「不安だったんですね」と返す。
この返し、間違ってはいません。 でも、もし相手が「うーん、そういうことじゃないんだけどな……」と感じてしまったとしたら?
このときのズレは、「表面的な感情ラベル」だけで返してしまったことにあるかもしれません。
支援の現場では、こんなことも起こりえます。
「それはつらかったですね」
→ 「……それ、今言いましたけど…」
「怖かったんですね」
→ 「……うん、それは自分でも言ってるんですけど、それだけじゃないというか……」
言われた内容をただ繰り返すだけだと、「わかったつもりになって処理された」という印象を与えてしまうことがあります。
言葉の「奥行き」を受け取る
大切なのは、その人が「つらい」と言ったとき、どんな意味を込めてその言葉を選んだのかに想像を向けることです。
たとえば、
- その「つらさ」は、誰にも言えずに一人で抱えてきたものかもしれない
- あるいは、ずっと我慢してやっと言葉にできたものかもしれない
- もしかしたら、相手にしか伝わらないような独特のニュアンスを含んでいるかもしれない
共感とは、その奥行きにふれる試みです。
「体験の手ざわり」は関係性の中にある
感情は、単体でポンと生まれてくるものではありません。
その人の置かれている環境や、周囲との関係性、 ことばにされなかったまま流れていった出来事―― そうした背景との相互作用の中で形づくられているのが、人の体験です。
たとえば「つらい」と語る人の背後には、
- 何度も無視されてきた職場の空気
- 何を言っても通じなかった家族との関係
- 助けてほしいのに誰にも言えなかった時間
……そういった「関係の中での経験」が、静かに息をしていたりします。
この人の生活、この人の人生を想像する
共感的に理解するというのは、いま話されている言葉だけを聞くことではありません。
その言葉が生まれた背景に、どんな生活があり、どんな生き方があり、どんな日常があるのかを、静かに想像することでもあります。
「この人は、どんな朝を迎えて、どんな顔をして食卓に座っているのだろう」
「どんな歩き方で駅まで行き、どんな声で『ただいま』と言っているのだろう」
そうした細部に思いを馳せながら、相手の語りをトレースしていく。
言葉にならない部分も含めて、その人の人生の地図を一緒に歩くようなまなざし。 それが、「体験の手ざわり」にふれるということなのだと思います。
内側に入り、文脈ごと感じ取る
以前の記事で、「相手の内側にとどまり、トレースしていくような共感」について書きました。
まさにこの“体験の手ざわり”をたどるということは、 その人の中に入り込むのではなく、その人の環境・関係性とのやり取りに目を向けながら、全体の構図を感じ取っていくということでもあります。
「この人の生き方なら、この出来事はどう映るのか?」 「この人がずっと通ってきた生活の道をたどるなら、今のこの言葉にはどんな重みがあるのか?」
そうした視点から相手の語りに耳を傾けると、 「つらい」「苦しい」といった言葉にも、その人なりの厚みが感じられるようになります。
ラベルではなく、体験に触れる
「共感=感情ラベルの言い換え」になってしまうと、言葉は薄く、軽くなります。
そうではなく、その人がどういうふうにその感情を体験しているのか――
「それだけ、一人で抱えてきたんですね」
「今こうして言葉にしてくれたこと自体、とても大きいことだと思います」
「その“つらい”には、いろんな気持ちが重なっているように感じます」
こうした応答は、“感情そのもの”ではなく、“体験の手ざわり”に触れようとする言葉です。
そのとき、相手は「ただ聞かれた」ではなく、「本当に聴いてもらえた」と感じるのではないでしょうか。
反映から応答へ、そして関係へ
共感的理解は、単に気持ちを「なぞる」のではなく、 その人の内側と、関係性のなかで形づくられてきた文脈全体にふれること。
それによって相手の中にも何かが起きる。 「ああ、話してよかったな」「なんだか少し自分が見えた気がするな」
そういう瞬間に、共感はただのスキルを超えて、関係として結ばれていくのだと思います。
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