臨床の「腕」を分けるものは何か?―私たちが陥る学びの盲点ー
技法が空回りしていませんか?「選ばれるセラピスト」と「離脱されるセラピスト」の決定的な違い
心理職として研鑽を積むなかで、誰もが一度は「新しい技法を学んだのに、なぜか改善率が上がらない」「手応えを感じていたはずなのに、初回来談だけで終わってしまった」という無力感に直面するものです。
最新の専門書を読み漁り、高額なワークショップで高度なスキルを習得しても、臨床の現場でそれが「空回り」してしまうのは一体なぜでしょうか。(もちろん強迫性障害やトラウマ治療など特定の技法なしにはどうにもならないものもありますが)実は、カウンセリングの成否を分ける要因は、私たちが必死に追い求めている「技法」そのものとは別の場所にあります。
先日開催した「臨床心理学超基礎講座」の研修でも、ベテランから学生まで多くの受講生に響いた「治療要因の研究」から、その正体を紐解いていきましょう。
目次
Toggle衝撃の事実:治療を成功させる「技法」の寄与率はわずか15%
私たちが「これさえ習得すれば」と期待を寄せる技法。しかし、統計データはその期待に冷や水を浴びせます。AsayとLambert(1999)の研究によれば、クライアントの改善に寄与する要因の内訳は以下の通りです。

| 要因 | 寄与率 | 具体的な内容 |
| クライアント治療外要因 | 約40% | 自然回復力、生活環境の変化、本人のレジリエンス、周囲の支え |
| 治療関係 | 約30% | 安全感、信頼、共感、アライアンス(共同関係) |
| 期待・プラセボ効果 | 約15% | 「良くなる気がする」「この人なら助けてくれそう」という希望 |
| 技法・理論モデル | 約15% | CBT、精神分析、家族療法、各種トラウマ技法など |
ここで直視すべきは、技法の寄与率は全体のわずか15%に過ぎないという事実です。
もちろん、強迫性障害やトラウマなど、特定の技法なしでは太刀打ちできないケースは存在します。しかし、多くの臨床家が陥る「二重の悲劇」は、全体の85%を占める基盤を疎かにして15%の枝葉に固執してしまうこと、そしてその15%ですら、実際には十分に習得できていないことです。
武道に学ぶ「基礎」:技法は土台の上にしか乗らない
この関係は武道の稽古そのものです。合気道などの世界では、新しい技を覚えること以上に、基本の動きを磨き直すことが重視されます。土台の精度が上がれば、その上に乗るあらゆる技が、面白いほど自然にかかるようになるからです。
臨床も同様です。スーパービジョンの現場でCBTなどのつまずきを分析すると、問題は技法の使い方以前の「ポジショニング」にあることがほとんどです。クライアントが「この場なら自分をさらけ出せる」という安全感(図の水色部分)が確保されていない段階で、どれほど優れた技法を投入しても機能しません。
ベテランのスーパーバイザーが、専門外の技法であっても的確な示唆を与えられるのは、技法が機能するための「土台」が崩れていることに気づけるからです。
「ドロップアウト」の深層:セラピストが気づかない沈黙
臨床において、不本意な離脱(ドロップアウト)は避けられない課題です。岩壁(2007)によれば、カウンセリングの約50%で中断が発生し、その17%はセラピストに対する明確な「不満」が原因とされています。

ここで恐ろしいのは、セラピストには致命的な「ブラインドスポット(盲点)」があることです。私たちはクライアントからの「同意」には敏感ですが、「不満」や「不信感」には驚くほど鈍感です。
元々 他人に対して 警戒心が強い、繋がりにくい クライアントが来た時ちょっとしたセラピストの焦りからのなくて良い介入や、話を聞くときの焦点化のズレなどにクライアントが不満を持つ。
がクライアントの方は 表明せずセラピストも自分のそもそも不満に気づかない。
クライエントが直接表明しないながらもイライラした態度や雰囲気を見せるが、セラピストはそれを扱えず「 やりにくい人だなあ」と肯定的な関心が向けられなくなる。ネガティブな相互作用が生まれ増幅。
理由を告げず クライエントはドロップアウトするが、セラピストは自分以外のところにドロップアウトの理由を紐付けてしまい、「関係作るのが難しい人でした」などと言って成長しないということはよく起こっているのではないか。 (掛井まとめ)
クライアントが発する「イライラした態度」や「重苦しい雰囲気」といった微かなサインをスルーし、離脱された後に「あの人は人格障害だったから」「治療関係を結びにくい人だった」と片付けてはいませんか?こうした「逃げ口上」を捨てた時、初めて臨床の質は変わり始めます。
マスターセラピストへの道:離脱率10%未満を実現する「調整力」
成績の良い「マスターセラピスト」は、離脱率を10%未満に抑え込みます。彼らに共通するのは、相手に合わせて自分を最適化する**「調整力」**です。
アライアンス形成の圧倒的な速さ:初期段階で深い信頼の楔を打ち込む。
スタイルの柔軟性:自分の型に嵌めず、相手に合わせて自分を変える(ジョイニング)。
フィードバックへの敏感さ:ノンバーバルな「うまくいっていないサイン」を逃さない。
関係修復の巧みさ:ズレを即座にチューニングし、細かくコンセンサスを取る。
真のプロフェッショナルとは、相性の良いクライアントだけを救う人ではなく、困難な相手に対しても「関係を作り直せる力」を持つ人のことです。
結び:基礎を磨き、変化の瞬間を待つ
技法はあくまで、臨床という大きな営みの一部です。私たちが「治そう」と躍起にならなくても、適切な場を維持し続けていれば、クライアント自身の生命力が発動する瞬間(コンステレーションの動き)が訪れます。

そのためには、まず「水色の枠(治療関係)」を盤石にすること。
ここを押さえることができれば、実は治療外要因の40%にコミットする可能性が出てくるかと思うんです。
コンステレーションを読み解き、変化の「流れ」に乗る
かつて河合隼雄先生も説かれたように、臨床の場では、セラピストとクライアント、そしてクライアントを取り巻く環境やタイミングが、ある特定の「配置」を取ることがあります。
バラバラに見える出来事が、実は一つの意味を持って結びついている。この「コンステレーションの流れ」を注意深く見立て、理解することができれば、セラピストが強引に技法でこじ開けようとしなくても、状況が「グッ」と勝手に動き出し、自然回復力(40%)が発動して良くなっていく瞬間が訪れます。
それは、まるで止まっていた歯車に油を差し、再び回り始めるのを待つような作業です。
「基礎」があるからこそ、変化が起きるまで粘れる
では、その自然な変化を引き出すために何が必要か。それこそが、水色で囲った**「治療関係(基礎)」**の力です。
場を維持し続ける粘り強さ:コンステレーションが動き出すまでには時間がかかります。基礎がガタガタだと、変化が起きる前にドロップアウトが発生し、回復のチャンスを逃してしまいます。
「待つ力」としての基礎:焦って技法を振りかざすのではなく、クライアントが「ここなら通い続けられる」という安全感を死守すること。この「基礎」を徹底して粘ることで、本来触れないはずの「治療外要因」の歯車を動かすことができるのです。
「技法以前の技」を磨き、コンステレーションを味方につける。これが、治療成績を劇的に引き上げる近道かと思います。
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