ユーティライゼーション(Utilization Orientation)事例解説「とにかく急いで牛乳を飲む」
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彼は患者がいかなるものを示しても、それをすべて利用した。頑なな信念、行動、要求、特徴を利用し、それらが治療のじゃまにならないようにしただけでなく、それらが治療を促進するようにさえしつらえた。
出典:ミルトン・エリクソン入門 第一章 P20
症状をその人のために利用するという発想って、一体どういうことなのでしょうか。
少し前にユーティライゼーションのところで紹介した事例を少しだけ詳しく解説することで、症状を利用することについて考えてみましょう。
とにかく急いで牛乳を飲む
ある女性の家に、親戚縁者がしょっちゅうやってきて、長時間居座るために、ストレスで潰瘍をわずらっていた。
エリクソンは彼女に、お腹の痛みを利用することを提案した。
彼女はこのアイデアを気に入り、親戚縁者が家にやってくるたびに、コップ一杯の牛乳を飲み干して嘔吐する、というのを繰り返した。親戚縁者が家に来ることは減り、来る前に電話をかけてよこすようになった。
彼女は彼らに家に来てほしくない時は、潰瘍が痛むといい、実際に家まで来た場合にも、彼らが長居が過ぎてくると彼女は胃をさすり始め、そうすると彼らは慌てて御暇するようになり、しばらくして潰瘍は治癒した。
症状⇒利用しよう!
彼女は潰瘍が出来てしまっているので、普通のお医者さんならまず潰瘍を治療しようとなるでしょうし、ひょっとしたら、「葛藤が身体化している」なんて言って、心療内科的な症状と捉えるかもしれません。
「お腹にきている⇒治療しよう!」というごくごく自然な流れです。
ところがエリクソンは
お腹に来ている⇒利用しよう!
となってしまうわけです。わけがわかりませんね。
偽解決を見破る
今までは親戚が来て長く居座っていても、彼女は嫌とは言わず我慢をしていたわけです。
それで潰瘍になってしまうわけですが、それでも彼女はそのことを言わずに我慢して、お茶を出したりお菓子を出したりして話に付き合っていたと思うんですよね。だからこそまたそこに親戚が来るという悪循環が起こっていたわけです。
家族療法、とりわけMRIやシステムズアプローチでは、この悪循環に注目します。
彼女が言いたいことを言わないでいるのは、彼女なりの親戚への対処法なのです。
しかし、その対処法がさらなる悪循環を引き起こしているので、この彼女の対処は努力しているけど解決に結びつかない「偽解決」と呼ばれるものとみなしてもいいでしょう。
エリクソンはこの偽解決の代わりに「牛乳を飲み嘔吐する」という対処方法を提案しました。結果として彼女は、潰瘍と痛みを利用して、親戚の来訪をコントロールする術を得たということになりました。
ここで2つの疑問が生まれます。
①なぜ「言いたいことをちゃんと言ったほうがいいよ」という介入をしなかったのか?
②なぜ彼女はこの少々無茶に思える提案に従ったのか?
このことについて考えるためには、彼女がどんな人で何を大切にしている人なのかを想像する必要があるかもしれません。
彼女は多分こんな人
多分彼女は生真面目で、人と争うことが苦手な人なのではないかなと思いました。
自分の都合で親戚に「早く帰ってほしい」と伝えることは、彼女にとって親戚との関係を損ねてしまうという恐ろしさがあったのかもしれません。
また親戚同士の複雑な関係性の中で、実際に伝えることは不可能だったのかもしれません。
この件に限らず、彼女は我慢するという対処方法を取りがちな人であったのではないかなと想像できます。
でも彼女は本当はきっと、すごく腹が立っていたんですよね。
彼女の気も知らずに楽しそうに我が家でくつろいでいる親戚をやっつけたい気持ちがあったけど、それを出すことができない、そんな葛藤に苦しんでいたと思うんです。
そして自分の無力さに打ちひしがれていたと思います。
その人らしさに逆らわない介入
エリクソンはたしかに症状を利用した介入を提案しました。
実はそれに加えてもう一つ、彼女の「自分の意志を言葉で伝えず、揉めず、親戚と良い関係でやっていきたい」という気持ちと「本当はやっつけてやりたい」という彼女の怒りの気持ちを大切に扱い利用した、と言えるのではないでしょうか。
彼女に対して、多くの人は「言いたいことはちゃんと言ったらいいのよ」というアドバイスをすることでしょう。
でもそれが出来なかったから潰瘍になっているわけですし、出来ないのは出来ないなりの彼女の事情があると考えてよいと思います。
そして彼女にとって出来ないことを助言されることは相当にきついはずです。
なぜなら「あ、その助言、ちょっと私に合わないんで」と言えない人だから、「あの人に親戚が来るのを断れって言われたけど、、、断れないし!」とまたその助言を断れなくて彼女が苦しむのは明白ですよね。
問題の核心である彼女の「断れない」というところを彼女の大事な部分とエリクソンはみなして、介入を作り上げたのではないかと思います。
彼女が断れるようになるのが彼女の成長じゃないか!との意見もあるかもしれませんが、それは彼女が望んでいることとはまた別のことかもしれません。
大事なのは、彼女が彼女らしくいながら、状況をコントロールするすべを一つ身につけ、幾ばくかの自信を得たこと、自分は全くの無力ではないと感じられたことではないかと思います。
まとめ
エリクソンの介入というのは、一見無茶で面白みのあるものが多いので、ついついその派手さに目が奪われてしまいがちです。
エリクソンは、その人がどんな人で、どんな物の考え方をして、何を求めているのか?というところを常に読み取りつつ、そこにぴたりと沿った、いわばオーダーメイドのようなその人専用の介入を作り上げる天才でした。
派手な介入は真似が出来ない気もしますが、その介入の下支えになっている「相手の気持ちや特性を、汲み取り読み取り活かす姿勢」というのはいくらでも真似していくことが出来ますし、意識して精度を高めていくことが出来るのではないかなと思います。
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こちらのブログもご参照ください。
【本】短期療法実践のためのヒント47
【本を読む】ミルトン・エリクソン入門 第2章その4 患者の行動を利用すること Utilizing the Patient’s Behavior
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