【臨床心理学超基礎講座】見立てとは何か?

見立てとは何か?情報の収集とその意味を考える
カウンセリングにおいて「見立て」とは何なのか。単なる情報の整理ではなく、クライアントの語ることの中から「今ここでの困りごと」に焦点を当て、それを理解し、意味を見出していく作業です。生育歴、家族関係、現病歴、最近の出来事、日々の習慣…。こうした情報は一見バラバラに見えますが、その人の生きている文脈の中で関連づけられると、一つの流れとして見えてくることがあります。その流れを捉え、「どこがクライアントにとって重要なのか?」を考えることこそが、見立ての核心なのです。
たとえば、大学院のカンファレンスでは「情報が足りない」「なぜこの点を聞いていないのか?」と指摘されることがあります。そうした経験から、やみくもに情報を集めることが重要だと考えてしまう人もいるかもしれません。しかし、情報が多いからといって、それがクライアントの理解に直結するわけではありません。むしろ、情報の洪水に埋もれてしまい、大切な部分を見失うこともあります。見立てにおいて大切なのは、「なぜこの情報が必要なのか?」を問い続けながら話を聞くことです。
たとえば、あるクライアントが「最近、家での会話が減った」と言ったとしましょう。この言葉だけを取り上げると、「単に家族の関係が少し変わったのかな」と考えてしまいがちです。しかし、この人の生育歴や家族との関係性を聞いていくと、「実は以前はとても会話が多かったが、ある出来事をきっかけに急に減った」のかもしれませんし、「もともと家族内の会話は少なかったが、最近になってそれが気になるようになった」という変化のサインかもしれません。重要なのは、言葉の背景にある「流れ」を見ていくことです。
また、クライアントが語ることの中には、意識的に語られるものと、無意識のうちにこぼれ落ちるものがあります。たとえば、「最近、なんとなく落ち込んでいて…」と言ったとき、その「落ち込む」という感覚はどこから来たのか? それは具体的な出来事に関連しているのか? それとも、ずっと抱えていた気持ちが今になって表に出てきたのか? そうしたことを探りながら、「この人にとって、今大事なことは何か?」を見極めていくのが、見立てのプロセスなのです。
見立てを深めるための仮説の立て方と問いの工夫
見立てをするうえで重要なのは、情報をどう整理し、そこからどのような仮説を立てるかという点です。カウンセリングの場では、クライアントが語る内容は一見ランダムに聞こえることがあります。しかし、その背景には必ず何らかのパターンや法則があります。それを見つけ出し、意味を与えていくことが、仮説を立てる作業になります。
仮説を立てるとは、単に「こういうことではないか」と考えるだけではなく、それをクライアントに投げかけ、対話を通じて確認しながら進めることを意味します。「あなたのお話を聞いていて、こういう部分が大きく影響しているように感じるのですが、どう思いますか?」といった問いを投げかけることで、クライアント自身も「そう言われてみると、確かに…」と気づくことがあります。このように、仮説は一方的に立てるものではなく、クライアントと共に作り上げていくものなのです。
仮説の立て方には「筋の良い仮説」と「筋の悪い仮説」があります。筋の良い仮説とは、クライアントの語りの流れに沿った、自然な問いかけができるものです。たとえば、「最近、気分が落ち込むことが増えた」と話すクライアントに対し、「何か特別な出来事がありましたか?」と聞くのは、比較的自然な問いかけです。一方で、「もしかして、あなたの母親との関係が原因ではないですか?」と、カウンセラー側の思い込みが強すぎる問いかけをすると、クライアントは「いや、そこは関係ないと思うんですが…」と困惑してしまうかもしれません。
良い仮説を立てるためには、「クライアントが語りやすいこと」を見つけ、それを引き出すことが大切です。クライアントの話の中に、「今まであまり意識していなかったけれど、言われてみると確かにそうだ」というポイントを見つけることができると、対話はスムーズに進みます。たとえば、「最近気分が落ち込みがちで…」という話の後に、「そういえば、以前はどんなときに気分が良かったですか?」と聞くと、クライアント自身が「そういえば、前はこんなことを楽しんでいました」と、自分の中で変化を発見することができます。
また、見立てを深める際には、「話されていないこと」にも目を向ける必要があります。クライアントが特定の話題に触れようとしない、急に話を逸らす、ある言葉を繰り返し強調する…。こうした微細な変化も、見立てをする上では重要な手がかりになります。「その話題に触れるのが難しいのかな?」「なぜこの部分を強調しているのだろう?」と考えながら対話を進めることで、より深い理解につながっていきます。
見立ては、クライアントの物語を一緒に編み直していく作業でもあります。カウンセリングを通じて、クライアント自身が「自分のことをより深く理解する」ことができるように、見立てのプロセスを丁寧に進めていくことが大切なのではないでしょうか。
臨床心理学超基礎講座では、このような発想で、見立てについてのお話ができたらと思っております。
研修情報のご案内
2025年4月より、「臨床心理学と解決志向の超基礎講座」を開講します。
大学や大学院で学んだ「基礎」はとても大切なものですが、いざ実践に出ると「そのままではなかなかうまくいかない」と感じた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この講座では、「基礎と現場をどう結びつけるか?」という視点から、あらためて基礎をブラッシュアップしていくことを目指します。
対象は、対人支援職の方だけでなく、支援職を目指す学生の方も歓迎しています。
▼ 詳細・お申し込みはこちらから: https://pro.form-mailer.jp/lp/735d131a326854
また、講座準備の一環として、「カウンセリングに関する基礎的な困りごと(傾聴・関係づくり・治療構造など)」に関する情報を集めています。
実際の現場で感じていること、疑問に思っていることを、以下のアンケートフォームからお寄せください。
皆さまのお声をもとに、より実践的で役に立つ講座にしていきたいと考えています。
▼ アンケートご協力のお願い: https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc8RJ60vZgjrulKrvRrRF5VqnCZnZlFzgf6wBByqvrrBVj1gA/viewform?usp=sharing
オンラインスーパービジョン無料体験
カウンセリングが上手くなりたい!
ケースの見通しをちゃんと立てたい!
手詰まりを感じている!
まだまだ上達していきたいカウンセラーの皆さんに、オンラインスーパービジョン無料体験のお知らせです。
毎月3名限定でオンラインスーパービジョンの無料体験をZoomにて行っております。
気になる方は下記のスイッチをクリック!