【僕が学んだこの一冊】成田善弘 セラピストのための面接技法 第一部 前半まとめ
精神療法の基本的要素
この本で成田先生は、精神療法の基本的要素として次の5つを挙げています。
- 専門家と依頼者
- 治療構造
- 傾聴し理解すること
- 理解を言葉で伝える
- 治療者の仕事を小さくすること
1 専門家と依頼者
自分の中に、患者さんが話すような、苦しみや辛い体験の記憶がある場合や、家族が同様の体験をしているときに、目の前の患者さんにのことを治療者としてでなく、家族や自分自身のこととして向き合ってしまうことがあります。
治療者として、専門家として患者さんの前に立つためには、自分の専門家になった動機を確認しておくことや、自分自身の問題について整理し、ある程度距離を取っておく必要があります。
また患者さんからの依頼がない状態で、精神療法に持ち込むことは、単なる押し付けになってしまいます。
自分の問題について自覚や意識がなく依頼がしにくい場合は、患者さんの中にいるはずの潜在的な依頼者に語り掛けるようなアプローチが必要になります。
そういったことを踏まえたうえで、やっと「専門家と依頼者」という関係性を始めることが出来ます。
2 治療構造
治療構造の多重的な意味合い
・治療構造があることで治療者が守られる
・治療に関わる諸条件を一定にすることによって、その治療構造をめぐるあれこれから患者さんとの関係性を査定する
・治療構造という非日常の空間、枠の中で患者さんが抱えられる体験をする
3 傾聴し理解すること
治療者には「不思議に思う」という能力が極めて重要です。
とても大切だと思うので引用します。
「不思議がる」介入は、患者がする心の仕事を少し増やすように作用します。
質問、明確化、直面化といった介入は、いずれも治療者が不思議に思うことに出発するもので、治療者に不思議がられることを通して、患者は自分について不思議がることが出来るようになり、それが自己洞察を導くのです。
もちろん何を不思議がるかが問題であって、実はそこに治療者の人間観と治療観が現れます。治療者は、患者が自立した個人ならふるまうであろう用には振る舞わないところを不思議がります。
つまり患者を自立した個人とみなすことが出来ないと、適切に不思議がることが出来ないわけです。
22p 第Ⅰ部 精神療法の構造と過程より
まずは不思議がる、そこからどういった問いの立て方をするのか?もその人のその人らしさが出るところかと思います。
また成田先生は患者の役目として「心の内を包み隠しなく語る」ということとしていますが、これは極めて困難なことであって、沈黙したり隠蔽したり言葉ではなく行動で表現したりすると、そういう逸脱自体が、患者を理解して治療するための手掛かりとなると語っています。
これはつまり「語らないことが語っている」ということ「語らなさ、語れなさ」自体に目と心を向けるのが大切ということでもあります。
4 理解を言葉で伝える
ここも、解釈について。
精神分析ではこれを解釈(interpretation)といい、治療者のする最も重要な仕事とみなされています。
解釈とは患者の言動の底にある感情を言語化して、患者の自覚を促すことです。そしてその感情のよってきたるゆえんについて、一つの可能性としての仮説を提示することです。
23p 第Ⅰ部 精神療法の構造と過程より
例えばスクールカウンセリングの現場で行われるカウンセリングなどでは、ここまでスパッと解釈することはほぼないですが、その人がなぜだかわからないけどやってしまっていること、意識化はしていないのだけど、今の状況を説明するのに役立つ無意識的な考えや行動について、丁寧にお伝えすることがあります。
どんな現場で働くにせよ、話を聞いて感じたこと「自分の理解したこと」を相談に来た方に伝えることは、とても大事なセラピストの仕事のひとつでしょう。
しかし、あくまでこれは自分の理解したことであって、そのことを「こんなん出ましたけど」と、相談に来た方にお伝えしてみて「え~ここはそうかも、でもでもこんなこともあるんですよ」「あ~それじゃあこういうことは?」「そうそっちのほうがぴたっとくる」なんて具合に、やり取りを介しながらその仮説や理解を共有して、一緒に奥深くまでのぞき込んでいく行為なのではないのかなと思っています。
一方的なものではなく、相互的なものになればいいなと思っています。
5 治療者の仕事を小さくすること
精神療法の関係はあくまで治療者と患者との「目的」を持った職業関係で、目的が達成されれば関係は終わるのが当然の前提です。
これは、関係性自体が目的となる親子関係や夫婦関係などの生活における人間関係と、一線を画すところでしょう。
ところが、精神療法的な関係は、最初は職業的関係から始まるのですが、相談を重ねて信頼関係を築く中で、個人的、情緒的な非職業的な関係が徐々に入り込んでくるものです。
セラピストに会うこと自体は「目的を達成するための手段」なのですが、非職業的関係性の側面が強まれば、カウンセリング自体が目的となっていってしまうことに。
こういう二重性を持つのが精神療法的関係性の特徴なのですが、だからこそ精神療法的な接近は、初めから終わることを目的として進んでいかねばならないのです。
金剛出版 成田善弘著 セラピストのための面接技法 POD版 精神療法の基本と応用
ふりかえって
まさにこの一冊で精神分析的心理療法の手順を学んだと思っていましたが、今読んでみると成田先生独自のワールド感がすごくて、でもそれが心にピタッときてよかったんですよね。
やはり治療者との関係性を扱うっていう文脈は、他のやり方をしていてもひそかにセラピーの底のほうで鳴っている気がしていて、今でもそこについて考えていることが多いなと思います。
大事な一冊とそこに至る道記に多大な感謝。
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