学校のルールとカウンセリングの原則をすり合わせる

ある程度経験を積んだスクールカウンセラーにとって、学校という組織の枠組みと、臨床家としての専門的な価値観や倫理観との間で生じるギャップを調整することが、大きな課題の一つではないでしょうか。
例えば、カウンセラーとしては相談者の主体性を尊重し、本人のペースでの支援を大切にしたいと考えていても、学校側は早急な対応や具体的な解決策を求めることが少なくありません。また、守秘義務の捉え方や、支援の目的の違い(カウンセリング的視点 vs. 学校運営的視点)によって、教員や管理職との連携に難しさを感じることもあるでしょう。
こうした状況に直面したとき、どのように折り合いをつけるのか、あるいはどこまで専門職としてのスタンスを貫くのかといった葛藤が生じやすく、これが経験を積んだスクールカウンセラー特有の困りごとになり得るのではないかと思います。
目次
Toggleスクールカウンセラー が迷うとき
スクールカウンセリングの現場では、クライアント本人の意思と、学校などの組織のルールとの間でどう折り合いをつけるかが重要になります。たとえば、ある生徒が学校内で何らかの困難に直面していたとき、まず考えなければならないのは、「その生徒自身がどうしたいのか?」という点です。
生徒が「この場にいたい」「この活動に参加したい」と思うかどうかが、支援の方向性を大きく左右します。逆に、本人が「やりたくない」「関わりたくない」と思っているのに、周囲が「これが正しい選択だ」と押し付けても、うまくいかないことが多い。だからこそ、最初に生徒の意思を丁寧に確認することが欠かせません。
一方で、学校には学校のルールがあり、その枠組みの中で動く必要があります。カウンセリングの場においても、学校全体の方針や制度を無視することはできません。そのため、まず「この学校はどのようなルールのもとで運営されているのか?」を確認することが、次のステップになります。
学校のルールと生徒の意思の間でできることを探す
カウンセラーの役割は、単に生徒の話を聞くだけではなく、「生徒の意思を最大限尊重しながら、学校のルールの中で何ができるかを模索すること」でもあります。たとえば、ある学校では自傷行為に関して「発覚したら即座に学校全体で対応する」というルールが明文化されていることがあります。
この場合、教師たちは「ルールだから」と即座に動くことができる。ルールが明確であるというのは、動きやすいというメリットがある反面、生徒個々の状況に細かく寄り添う余地が減る可能性もあります。カウンセラーとしては、「このルールのもとで、どのように生徒の安全を守りながら、適切な対応ができるか」を考える必要があります。
また、「ルールが曖昧である」という状況もあります。ルールが明確でない場合、対応はその場の判断に委ねられ、関わる人によって対応が変わることもあります。これは柔軟な支援ができる可能性がある一方で、一貫性のない対応が生じるリスクもあります。そのため、どのような場合でも生徒の安全と尊厳を守ることを最優先にしながら、対応の方針を決めていくことが大切です。
現実的な選択肢を広げ、最適な対応を探る
カウンセリングでは、可能な選択肢を広げ、その中から「どの方法が最も現実的で、なおかつ望ましいのか」を探っていきます。たとえば、生徒の置かれた状況に応じて、以下のようなアプローチが考えられます。
• 明確なルールに基づいて対応する
→ 学校の規則が明文化されている場合は、それに沿って動くことで、無理なく対応できるケースもある。
• 状況に応じて柔軟な対応を考える
→ 学校の方針が固まっていない場合は、カウンセラーや教師間で方針を話し合い、できるだけ生徒の意思を尊重した対応を考える。
• 学校内の他のリソースを活用する
→ 学校の中で生徒をサポートできる仕組み(例:相談室の活用、担任や学年主任との連携など)を最大限に活かす。
これらの方法を並べたうえで、どの選択肢が最も適しているかを検討していきます。その際、「この選択をするとどのような影響があるのか?」を考えながら、メリットとデメリットを整理していくことが重要です。
また、「どの情報があれば、より適切な判断ができるのか?」を考えることも大切です。たとえば、「生徒が安心できる関わり方があるのか?」「生徒と深い関係にあるのは人物なのか?」といった情報がわかれば、どのような関わり方が望ましいのかが見えてくることもあります。
学校のルールを活かしながら柔軟な対応を作る
最終的に、カウンセラーが目指すべきなのは「生徒の安全を守りつつ、学校の構造の中でできる最善の支援を考えること」です。たとえば、次のようなルールや対応方針を事前に決めておくことで、よりスムーズに支援を進めることができます。
• 自傷行為に関する対応ルールを明確にする
→ 「軽度の傷であれば、まずは本人の話を聞く」「緊急性がある場合は、すぐに医療機関と連携する」など、段階的な対応方針を決めておく。
• 情報共有のルールを定める
→ 「相談室で話した内容をどの範囲で共有するのか?」「どのように本人に説明するのか?」をあらかじめ決めておく。
• 生徒との合意を重視する
→ 「本人にどこまで情報を開示するのか?」「どのようなサポートが望ましいか?」を話し合いながら決める。
このように、事前にある程度のルールを設定しておくことで、いざというときに「どう対応すべきか?」と迷うことが少なくなります。また、学校とカウンセリングルームの間でルールのすり合わせを行うことで、関係者全員が同じ方向を向いて動くことができるようになります。
まとめ
学校でのカウンセリングにおいては、生徒の意思と学校のルールをどのようにすり合わせるかが重要になります。カウンセラーとしては、
• 生徒の意思を最優先に考える
• 学校のルールの枠組みの中で最適な対応を探る
• 複数の選択肢を考え、現実的な方法を見つける
• 事前にルールを整備し、スムーズに対応できる体制を作る
といった視点を持ちながら支援を進めることが求められます。
最も大切なのは、「生徒が安心して相談できる場をつくること」です。そのためには、ルールに縛られすぎず、かといってルールを無視するのでもなく、適切なバランスを取ることが大切になります。カウンセリングの場を通じて、生徒が「話してよかった」と思えるような支援を提供できるよう、柔軟な対応を心がけていきたいものです。
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