補助線を引くということ:曖昧なイメージの話を具体化するために

イメージと感覚
臨床の現場では、相談者が「イメージのまま」「感覚のまま」でお話をされる場合があります。それはそれで悪いことではありません。けれども、もしそのイメージや感覚で話していることで、セラピストがピンとこないまま回数が進んでしまうのは避けた方が良いかもしれません。(もちろんイメージをイメージのまま扱うやり方の切れ味はすごいものがありますが、それができないのであれば、という話でもあります)
そこで重要になるのが「補助線を引く」という関わりです。共通認識を得るために、言葉でイメージと現実の間に橋をかけていく。その線があることで、相手は自分の体験を改めて整理できるようになります。
ロジカルな語りとイメージの語り
相談者の中には、非常にロジカルに話をする人もいます。
「母との関係で困っている」「この場面で怒りが湧く」「そこにはこういう理由があって」といったように、ある程度具体的に筋道を立てて語る人です。
一方で、イメージや雰囲気の語りが優勢で、それを筋道立てて言葉にする準備性があまりない人もいます。その場合、「なんかわかるかも?」と感覚レベルでの共有はあっても、それを理解へとつなげていく道筋が見えにくくなります。
ここで必要になるのが、セラピストが補助線を引く工夫です。
「イメージ」を具体化する問いかけ
たとえば「安心感」という言葉。
「安心感が持てるようになりたい」と話されている場合。
「あなたの言う安心感とは何ですか?」と問いかけても、話せる人もいれば言葉が出てこない人もいます。そこで次のような問いかけを工夫します。
「もし今あなたが安心感を持てていたら、どんな行動ができていると思いますか?」 「例外的に安心感を持てた経験はありますか?」 「過去に自信を感じられた場面はありませんか?」
部活動の試合や、空手で相手と向き合った瞬間など、思いがけず「例外的な自信の体験」が語られることがあります。そこから「自信」という言葉に輪郭が生まれ、リアリティを帯びてきます。
自信の形を一緒に探る
補助線を引きながら、その人の生活の中で「自信のなさ」がどう現れているかを具体的に見ていきます。
たとえば「自分がしんどい時でも、いつも親の顔色を伺って元気なふりをしてしまう」という話であれば。もし安心感があれば「今日はちょっとしんどい」と伝えられるかもしれない。相談者が「それができたらいいかも」と感じられたら、そこに新しい安心感の形が見えてきます。
つまり、この人の言う安心感とは「自分が少しでも相手に不安や不快を与える行動言動をしたら、相手がどんな反応するのかわからない怖さ」みたいなものかもしれない、という仮説を立てることも可能ですよね。
またそれが、親以外の人の場合はどうなのか?例外的に大丈夫な相手はいるのか?といった問いかけが、さらに具体的に「この人の話されている安心感がなんなのか?」ということに手触りを与えてくれるはずです。
そうすることで、過去の体験や現在の人間関係の中で突破口が見えてきます。
補助線を一緒に引く作業
補助線とは、セラピストが勝手に引くものではなく、クライアントと一緒に「この線で考えるならあり得るかも」と確認しながら引いていくものです。
的外れであれば相手はその線に乗ろうとしません。逆に「これはありだな」と感じれば、そこから少しずつ言葉を積み重ねていくことができます。
つまり、補助線を引くとは、相手の思考が右へ左へ、上へ下へと動けるようなハシゴやとっかかりを一緒に作っていく作業なのです。
SV(スーパービジョン)においても
「安心感」だけでなく「不安」「トラウマ」「元気」「自信」「プライド」といったように、 左門皆が同じものとして共有しているつもりで、使いがちな言葉でも、実際には話す一言、相談者ごとに輪郭や意味合いは大きく異なります。
その曖昧な言葉に補助線を引き、確認をし、形を見出す過程自体が、カウンセリングの大切な営みではないでしょうか。
でもこれ実はスーパービジョンでも同様なことだったりもします。
なんとなくのイメージで語れることに少しずつ輪郭をつけていく、手がかりを探していく共同作業が、相談者の現実をよりはっきりと色付けて、解像度を上げて語られるようになっていく。
このプロセスを経てこそ、見立ての精度が上がっていくのでは?と考えております。
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