スクールカウンセラーが大切にする「子どもの関心に注意を向けて聴く」技術
スクールカウンセリングの現場で、私たちは日々ある光景を目にします。それは、適切に寄り添い、じっくりと話を聞くことで、子どもたちが目に見えて元気を取り戻していく姿です。
たった一回の面接でも、沈んでいた表情が明るくなり、エネルギーが溜まっていく。なぜ「話を聴く」だけで、これほどの変化が起きるのでしょうか。
目次
Toggle1. 「批判なき傾聴」がもたらす心の弛緩
悩みや葛藤を抱えているとき、人の心も体も固く強張っています。「こんな自分は受け入れられないのではないか」という自己否定のなかにいるからです。
そこに、批判や助言を挟まずに聴き続ける存在が現れると、何が起きるか。自分のなかの弱さや苦しみをそのまま「外に吐き出し、誰かと一緒に眺める」ことができます。それは、否定していた自分自身が肯定される体験であり、静かで大きな「感情のリリース(解放)」となります。
心が緩むことで、人はやっと一息つき、自ら回復へと向かう準備ができるのです。
2. 「コンテンツ」ではなく「コンテクスト」に注目する
子どもが熱心に話すアニメやゲームの話。大人にとっては「内容(コンテンツ)がよく分からない、興味が持てない」と苦痛に感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし、心理の専門職が注目するのは「何(What)」を話しているかではなく、「なぜ、どのように(Why / How)」話しているかという文脈(コンテクスト)です。
・この作品の何が、この子をこれほど惹きつけるのか?
・どんな部分を自分の中に取り込もうとしているのか?
・この子の性格や生活は、作品からどんな影響を受けているのか?
「コンテンツに興味を持つ」のではなく、「その作品を大切にしている『その子自身』に興味を持つ」。このポジションで聴くことができれば、大人にとってもその時間は豊かな理解の場に変わります。
3. 大切なものを大切にされる=自分が大事にされる
大人、特に評価する立場にある親や先生は、つい「その話に意味があるか、価値があるか」で判断しがちです。
そんな中で、自分の関心事に心からの興味を寄せてもらえる体験は、子どもにとって極めて稀で、強力なエンパワメントになります。直接「あなたは大事だよ」と言わなくても、「その子が大事にしているものを、こちらが大事に扱う」ことで、間接的に「自分自身が大事にされている」というメッセージが伝わるのです。
子どもが目をランランと輝かせ、瞳孔を開いて話しているとき。それはまさに、「回復魔法」がかかっている時間だと言えるでしょう。
4. エネルギーレベルに合わせた「選択肢」の提示
ただし、注意が必要な場合もあります。意欲が低下し、好きなことすら楽しめないほどエネルギーが枯渇している子に対して、無理に話をさせるのは逆効果です。
そんなときは、無理に「表現」をさせず、ただ静かにそばにいること。あるいは、その子のエネルギー状態で無理なく取り組めるアクティビティを、本人の選択に基づいて提示することが重要です。
カウンセラー側の専門性(コラージュや絵画など)を押し付けるのではなく、
・自己決定の幅を保障する
・間接的な肯定を積み重ねる
・適切な距離と時間を測る
こうした細やかなアセスメントに基づいた配慮があってこそ、カウンセリングルームは真の安心の場となります。
おわりに
子どもたちのエネルギーを奪うのも人間関係ですが、その枯渇したエネルギーを満たすのもまた、人間関係の中に流れる「関心」という名の眼差しです。
保護者や教師、そして私たちスクールカウンセラーを含めたすべての支援者が、今回お話ししたような「コンテンツではなくコンテクストを聴く」という視点を持つことができれば、子どもたちにとっての日常はもっと安心できる場所に変わるはずです。
「何を話しているか」という形にとらわれすぎず、その子が「いま、一生懸命に自分を表現している」というその事実を大切に受け止める。そんな精度の高い「聴く」を、周囲の大人がそれぞれの立場で届けていけることを願っています。
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実はこれ、大人でも全く同じことなのです
ここまでスクールカウンセリングの現場を例にお話ししてきましたが、実はこの「関わり」の原理原則は、大人を対象としたカウンセリングでも、あるいは日常の人間関係においても全く同じことが言えます。
相手が誰であれ、その人の文脈を尊重し、大事にしているものを共に大事に扱う。その静かなプロセスこそが、人を芯からエンパワメントしていきます。
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参考文献
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東山紘久 著 プロカウンセラーの聞く技術(創元社)
近藤拓 著 死んだ金魚をトイレに流すな ―「いのちの体験」の共有 (集英社新書)
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