エンパワメントについて具体的に考える

目次
Toggleエンパワメントとは?
「エンパワメント」とは、辞書的には「権限を与えること」「権利の拡張」といった意味ですが、臨床の現場で私たちが扱う時には、もう少し違ったニュアンスで捉えることが多いです。
それは、「本来あるはずのその人の能力や個性が、何らかの環境的な制約や背景によって発揮しきれなくなっている状態を、もう一度解放するような関わり」という意味合いでお話ししています。
方法論としての枠組み
エンパワメントするときには以下の三つのことが欠かせないと思われます。
- コンプリメント(ほめること、ではなく「よさへの注目」)
- リソース(その人の内側・外側にある資源)
- 協働的な課題設定(一緒に取り組むスモールステップ)
- 抵抗処理
これらについて解説していきます。
コンプリメントとは
「コンプリメント」とは、その人の良きところを見つけ、それについてなんらかの形で(言葉でなくても構いません)言及することです。
表面的なほめ言葉ではなく、「その人が自分自身をもう一度信じてみようと思えるような視点」を一緒に探していく作業と言えるかもしれません。
リソースとは
「リソース」は、その人の内側(性格・能力・感性など)にも外側(人間関係・制度・趣味・日常的な習慣など)にも存在しています。
リソースは、誰かと比べてどうかというものではなく、その人の人生の中で「何が支えになってきたのか」を一緒に探していく作業です。
協働的な課題の立て方
「やればほとんど達成する」くらいのスモールステップを一緒に考えていく。そして、その達成をともに喜べるような関係性を作っていく。
これが「協働的な課題設定」の根っこにある考え方です。課題そのもの以上に、そこに誰かが「一緒に歩く」ということが支えになるという発想です。
臨床における肝:「抵抗処理」
私が一番お伝えしたいのはここかもしれません。
支援の現場では、「自分はダメだ」と落ち込んでいる方にポジティブな言葉をかけても、「でも……」と跳ね返されてしまうことがありますよね。
エンパワメントの関わりの中で最も重要なのは、「抵抗処理」なのです。
つまり、相手が受け取れない状態にあるときに、どうその「受け取れなさ」にも敬意を払いつつ、関係を紡いでいけるか。
ここを丁寧に扱うことが、エンパワメントにつながるのだと思います。
エンパワメント=褒める ではない
そもそも、なぜ「エンパワメント」なんて少し専門的な言葉を使うのか。正直なところ「褒める」では伝わらないことが多いからです。
例えば、こちらのポストにもあるように:
https://x.com/shinshinohara/status/1720961307103641839?s=46&t=p3VSuxXEGJx3UpwPhtvw1A
「褒める」は相手の受け取り方によっては、上下関係のように感じられてしまったり、評価されたように感じたり、時に不信感につながることすらあります。
だからこそ私は、「褒める → 認める → エンパワメント」という流れを大事にしたいと思っています。
「褒める → 認める → エンパワメント」
丁寧に、心を込めてその人の存在に目を向け、言葉にしていく。その積み重ねが、「私はここにいていいんだ」「私は自分のやり方でやっていいんだ」という感覚に少しずつつながっていく。
その過程こそが、エンパワメントだと思うのです。
「エンパワメントって、結局なんなの?」という問いに
研修の中でもよく出るのですが、「結局、エンパワメントって何をすることなんですか?」というご質問をいただきます。
僕なりの答え方としては、やっぱり「その人の生きる力に、もう一回出番を与える」ということだと思っています。
環境のせいでうまく出番がまわってこなかった力とか、いろんな経験のなかでちょっと引っ込んじゃったような部分を、「いや、あなたにはそういうところ、あるんですよ」と光を当てていく。それが、僕の中のエンパワメントのイメージです。
そしてその時、「これをしてあげよう」という態度ではなくて、「この人がすでに持っているものに気づいていきたい」という気持ちでいられるかどうか。そこに支援の肝がある気がしています。
褒める、でも評価しない
何度も言いますが、「褒める」と「エンパワメント」は違います。
「褒める」っていうのは、相手が受け取りやすい形で伝わらないと、評価されたり、比べられたり、試されている感じになってしまうことがある。臨床では、それがむしろ関係を遠ざけてしまうことすらあるんですよね。
だから僕は、「褒める」って言葉を丁寧にたどって、「認める」にしていく。そして、それを積み重ねて「エンパワメント」につなげていく。その流れを大事にしています。
うわべの言葉じゃなくて、「あなた、よくやってると思いますよ」って、こっちがちゃんと本気で思えてるかどうか。そういう関係のなかでこそ、人は少しずつ力を取り戻していくんじゃないかなって、僕は思っています。
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