【本を読む】ミルトン・エリクソン入門 第2章その9 現行パターンの変容①
ミルトン・エリクソン入門を読む
WHオハンロン著「ミルトン・エリクソン入門」(金剛出版)という本があります。
この本は、ブリーフセラピーの源流になったと言われる天才的な精神科医ミルトン・H・エリクソンのアプローチについて、著者の目線からまとめられており、僕自身の臨床の中で一番大きな影響を受けている本の一つです。
自分の臨床を見直すという意味でも、ミルトン・エリクソンについて多くの方に知っていただくという意味でも、この本に書かれていることを紹介しつつ、自分なりにコメントを書いて行こうかと思います。
関心の在る方はお付き合いください。
前回の内容はこちら。
【本を読む】ミルトン・エリクソン入門 第2章その8 バイオ・ラポールBaiorapport
目次
Toggle現行パターンの変容Alterring Existing Patterns
彼は、患者の信念や行動の中にある硬さを観察して、それを病理的だと考えたのである。硬さのあるところに柔軟性をあらしめよ、と彼は言っているように思われる。もしそこに柔軟性が持ち込まれれば、病理はなくなるか、あるいは、少なくとも、その有害性の部分で、病理は大幅に減退するだろう。 ミルトン・エリクソン入門 P44
エリクソンは、人が精神的な問題に陥ったときには、そこに精神医学的な原因があるから、ではなく、その人の持っている何らかの「硬さ」が今の問題や病理を形成するのに役に立っていると考えていたようです。
原因ー結果のモデルで考えるならば、原因を突き止め、取り除き、と言うことをやっていく必要があります。
しかし、こういった時に見つかる原因というのは、もともとのその人の気質であったり、発達の特性、家族との関係、仕事や学校などの社会的な関係に由来するものがほとんどでしょう。(現代では原因を病理として特定してCBTで、という場合もありますよね)
そういったものを原因として特定したとしても、それを取り除くというのは、なかなかそのこと自体が難しい問題ですよね。
そういった難しさを考えた場合「 硬さのあるところに柔軟性を持ち込む」というのは「原因を取り除く」に比べてだいぶ取り組みやすいことと言えるでしょう。
UnsplashのBrian Pennyが撮影した写真
症状複合体Symptom Complex
エリクソンは、クライエントは今抱えている問題について、かなり詳しい説明を求めていました。
そうして 十分な情報を得た上で、問題の全体ではなく、ある側面について影響を与えていく、変容を促すという取り組みを行っていたようです。
まず1側面で違いを作ることができれば、その変化そのものが他の側面に影響与えることもあるかもしれませんし、何よりも「変わらないと思っていたものが変わる」という実感を、クライエント自身が体感することができるかもしれません。
小さな違いを作る工夫
精神科でカウンセリングをしていると、うつや不安障害で悩んでいる方に多くお会いします。
そしてその方々の話を聞いていて「断れない」という困りごとを持っている方は非常に多くいて、それは、家族や友人、仕事仲間といった特定の相手に対する断りにくさであることもあれば、およそ誰からの頼みであっても全て断れない、という方もいらっしゃいます。
そういったこともあり、クライエントさんと相談をしながら「断る」をとりあえずの課題にしてカウンセリングを進めることもよくあります。
そう、症状複合体のある一側面を取り上げるということです。
そこで「じゃぁ、断れるのを目標に練習しましょう」「来週までに1回は断るチャレンジをしましょうか」みたいな取り組みでも良いのかもしれませんが、今までできていなかったことを、人に言われたからといって急にできるようにはなりませんよね。
なので、僕の場合は、
①クライエントさんにとっての「断る」ことの苦しさや恐怖について十分に聞いて、怖さや苦痛を一緒に評価する。
②①の評価を参考に「断る」よりも半歩手前にある課題や、10歩だったり100歩手前の課題を提案してみます。
断ることに関しても、いざやるとなると、なかなか不安を感じる方は多いです。
でもここで言う「断る」は、「いやです。私はやりません。あなたが自分でやったらいいじゃないですか」とビシッと言うのを目標にしなくても良いんですよね。これだとめちゃめちゃ勇気がいるし、なんならここまで言わないほうがいいですよね。
例えば最初は「即答だけはとにかくしないようにする」でも良いわけです。
「スケジュールを確認するふりをして、それから笑顔で、やらせていただきます、とにっこり言ってみる」
「受ける前提で、1回持ち帰って判断させてください、と持ち帰ってみる」
「 えーーー!と大袈裟に驚いた後に、いいですよ!と元気よく受ける」
といったように、いろいろなパターンを提案してみて、クライアントさんにも 考えてもらい、やれそうなチャレンジ課題を決めてもらいます。
UnsplashのMeghan Lamleが撮影した写真
「結局引き受けるのであれば、何も変わらないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
いやいやなんのなんの。
実際に、こういった課題に取り組んでいただくと「相手の表情がよく見えた」「相手の方が気を遣って頼まないでくれた」「ちょっとでも嫌な顔を見せたら、怒りだすのではないかなと思ったが、実際はそんなことがなかった」 というように、課題に取り組んだことで、それまでのやり取りでは起こらなかった新たな相互作用が起こり、それをクライエントさん自身が観察することができるようになります。
こういった体験を足がかりに、「断る」以外のことにもチャレンジをすることが可能になっていきます。
こういった「いつもと違う体験と、相互作用の観察」を通して、自分が決めていたルールの狭さに気がついたときに、「自分は自分のなりたいように変化をすることができる」と言う可能性を秘めた選択をとることができるようになっていくのではないでしょうか。
そう、即答しないという小さな課題における変化が、これまで体験することができなかったルートの景色をクライエントさんに示すことになったんです。
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