パラドックスと小さな差異に注目する不登校支援 〜スクールカウンセリングの視点から〜

パラドックスと小さな差異に注目する不登校支援 〜スクールカウンセリングの視点から〜
以前、ある雑誌に記事を寄稿させていただきました。それからしばらく時間が経ちましたが、仕事で出会った方々やスーパービジョン(SV)を受けられている方から「読みました」と声をかけていただくことがあり、感想を伺うたびに「書きたいことがきちんと届いていたんだな」と実感し、嬉しい気持ちになります。
僕の記事以外にも学びとなる記事ばかりの一冊です。
多くの方に触れていただきたいと思い、僕の寄稿した、不登校へのパラドックス的な見立て、対応の仕方について、要約して簡単にまとめさせていただきました。
気になった方はぜひ本を手に取っていただけたらと思います。
令和型不登校をあきらめない 日本評論社
目次
Toggleはじめに
ここ十数年で、不登校の児童生徒の増加が顕著になっています。この背景には、子ども自身の変化だけでなく、社会環境の変化も大きく関わっています。同時に、支援者のあり方も変化しており、スクールカウンセラーには従来の個人セラピーに加え、多職種連携や協働を前提とした支援の枠組みが求められるようになりました。
そのためには、支援のプロセスに「分かりやすさ」を取り入れることが不可欠です。支援者間で共通の認識を持ち、具体的なアセスメントを基にして「どのような支援が有効か」を共有する枠組みを構築することが求められます。本稿では、不登校支援におけるパラドックスの解決と、具体的な小さな変化に注目することの重要性について考えていきます。
不登校にまつわるパラドックスの解決
「学校に行きたいけど行けない」という矛盾
不登校の支援において、支援者が必ず直面するパラドックスがあります。それは、「子どもが学校に行きたいと言っているのに、実際には行けない」という矛盾した状況です。親や教師は、子どもの「学校に行きたい」という言葉を信じ、登校の準備を進めますが、当日になると「やっぱり行きたくない」となる。この状況に対して、周囲の大人は子どもが嘘をついているのではないかと捉えてしまうこともあります。
しかし、これは単なる嘘ではなく、「いつかは行きたいと思っているが、今は行けない」という二重の心理状態が反映されたものです。言語化が難しいため、「行きたい」という言葉が表面に出てくるものの、本心では「今はとても無理だ」と感じているケースが多いのです。
「そもそも学校に行きたくないんだけど」と言える場を作る
この問題に対応するには、子どもとの対話の底をぶち抜く必要があります。例えば、東北大学の若島孔文先生は、不登校の子どもとのカウンセリングの際に、「君、本当は学校なんて爆発しちゃえばいいって思っているんじゃない?」と投げかけたことがあるそうです。当然、親も驚き、子どもも「そんなことないですよ」と笑ってしまう。しかし、このやり取りを通じて、子どもが無意識のうちに抱えている「本当は学校に行きたくないけれど、それを言えない」という気持ちを共有できるようになります。
もし支援者が「学校に行きたい」という言葉をそのまま受け取ってしまうと、子どもは追い詰められてしまいます。まずは「本当は行きたくない」という気持ちを認め、その上で、どのような選択肢があるのかを一緒に考えることが重要です。
綱引きの関係
親や教師が熱心に登校を促せば促すほど、子どもが学校から遠ざかってしまうという現象があります。これは、「不登校は悪いことだ」という前提があるため、再登校を促す行動が、子ども自身の状態を否定することにつながるためです。
特に、学校が子どもにとって「傷つく場所」「怖い場所」である場合、そこに戻そうとすればするほど抵抗が強まるのは当然のことです。そのため、まずはこの綱引きの状態を断ち切る必要があります。
「再登校」よりも「元気になること」を目標に
登校再開を目標にするのではなく、まずは「子どもが元気になること」を最優先に据えることが大切です。エネルギーが回復し、本人が「やってみようかな」と思える状態になることが、結果的に登校につながるケースが多くあります。
また、学校環境の調整も不可欠です。学校に行けない理由を特定し、必要に応じて環境を整えることで、登校のハードルを下げることができます。ただし、無理のない範囲で進めることが重要です。
不登校のアセスメント 〜小さな変化を見逃さない〜
具体的な変化を捉える視点
「元気になること」を目指す際に、何をもって「元気になった」と評価するのかが重要になります。単に「登校できたかどうか」ではなく、それ以前の小さな変化に注目することで、支援の方向性を見出すことができます。
例えば、
- 自室のベッドにこもっていた子がリビングに出るようになった
- 家族以外の人と話せるようになった
- 動画ばかり見ていた子がゲームをするようになった
これらは、登校や学習と直接結びつかないように見えますが、実際には大きな前進です。逆に、「登校できるかどうか」だけを評価の軸にすると、登校できていない子どもや、子どもを学校に行かせられないと感じている親を、常にマイナス評価することになってしまいます。
「出来ない」の中の「出来ている」を見つける
例えば、「夜は学校に行くと言っていたのに、朝になったら布団から出られない」という場合。これは、「学校に行く」というイメージはできていて、それを言葉にすることもできたけれど、実際に行動に移すのが難しい段階であることを示しています。
このような状況では、「行けなかった」ことに注目するのではなく、「学校に行こうとイメージした」「言葉にした」という部分に目を向けることが大切です。小さな変化を見つけ、それを積み上げていくことが、結果的に大きな変化を生み出します。
まとめ
不登校支援においては、子どもの言葉をそのまま鵜呑みにするのではなく、その裏にある感情や本音にアプローチすることが重要です。また、登校を目的とせず、まずは「元気になること」に焦点を当てることで、無理のない形で支援を進めることができます。
「出来ていないこと」ではなく、「出来ていること」に目を向け、そこから少しずつ積み上げていく。この視点を持つことが、不登校支援において最も大切なことなのではないでしょうか。
令和型不登校とは?神村栄一先生による書籍と研修動画についてのお知らせ
平成25年度以降、急速に割合を増やしている不登校について、 従来型の不登校とはまた違う対応が必要になってきています。
令和型不登校対応クイックマニュアルの著者である、新潟大学教授の神村栄一先生をお招きし、令和型不登校への対応の方法についてと、認知行動療法を活用した不登校対応のコツについて解説していただきます。特に後半のディスカッションでは、現場の先生方にも質問をしていただき、新たな現場の知や発想を共有できる機会にできたらと考えております。
今回のウェビナーは、参加される方が不登校についての基礎的な捉え方、具体的な対応についての発想の仕方について学べることを目的としています。
それだけでなく、認知行動療法の知見に基づいた介入方法の裏側にある、神村先生のユーモア溢れる人間観も含め、不登校対応に悩む多くの学校関係者に対応のコツを感じていただけたらと思います。
多職種が出会い、相談できる場に
今回のウェビナーはスクールカウンセラー 限定ではなく、多くの教員やソーシャルワーカー、スクールロイヤーといった多職種の方々に参加していただければと思っております。
(スクールロイヤーの先生から直々に参加するよとのご連絡をいただき喜んでいます)
当日は意見交換会だけではなく、神村先生を囲んでのオンライン懇親会もあります。
連携のためにはお互いの視点を知ること、それぞれが大事にしているところを理解することが必須かと思います。
参加者それぞれの現場でのより良い連携に繋がるウェビナーになることを願っております。
熱い講義の後にリラックスしてディスカッションしましょう。
ウェビナー概要
■講座名:Vol.14 「支援者のための令和型不登校対応マニュアル徹底解説!」
■講師:神村栄一(新潟大学教授・臨床心理士)
■2024年4月21日 (日)
13:00〜令和型不登校ってどうよ?
14:30〜CBTによる不登校支援、児童思春期支援ってどうよ?
15:30〜意見交換会
16:00〜オンライン懇親会
現在も録画視聴についてのお申し込みを受け付けております。
詳しい情報とお申し込みは以下のフォームより。
https://pro.form-mailer.jp/lp/609ab743307399
対談動画
またおなじみ事前対談動画もあります。
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