問題志向のメガネと解決志向のメガネ──原因–結果モデルの限界
目次
Toggleスクールカウンセラーとして学校現場に入ると、子どもの不登校、教室での不適応、保護者対応、先生方との連携など、さまざまな相談に出会います。
そのとき、問題だけを見ていると、支援者自身もだんだん苦しくなってしまうことがあります。
「この子は何が問題なのか」「家庭の何が悪いのか」「学校のどこを変えればいいのか」と考えることは大切です。しかし、それだけでは見えなくなるものもあります。
ブリーフセラピーや解決志向には、そうした場面で支援者の視野を広げてくれる大切な考え方があります。それが利用性という考え方です。
■ 結論
- 解決志向やブリーフセラピーでは、問題だけでなくリソースを見ることが大切です
- 利用性とは、本人の内側だけでなく、環境・関係・状況まで支援に活かす考え方です
- スクールカウンセリングでは、子ども本人だけでなく、保護者や教職員との相互作用を見る視点が役立ちます
- 問題に取り込まれすぎず、関係を作りながら見守るバランスが、初任者の支援を支えてくれます
解決志向の核心は、問題を否定することではなく、問題として見えているものの周囲にあるリソースを見つけ、関係の中で活かしていくことにあります。
ブリーフセラピーの核心にある「利用性」とは
解決志向、そしてブリーフセラピーにおいて大切な哲学の一つに、利用性があります。
利用性とは、クライアントさんの内側にある力だけでなく、その人の周りにある環境、状況、対人関係、さらには一見すると問題に見えるものまで、支援のために活かしていく考え方です。
たとえば、その人のこだわり、苦手なこと、嫌いなもの、頑なな信念や価値観も、見方を変えると支援の糸口になることがあります。
これは、「何でも肯定すればよい」ということではありません。
問題を問題として見るだけでなく、「この中に、何か使えるものはないか」「この状況の中に、本人を助ける要素はないか」と見ていく姿勢です。
そのためには、柔軟な発想と広い視野が必要になります。
問題思考だけで臨床をしていると、この視点はなかなか持ちにくくなります。
傾聴にも共通するセラピストのマインド
臨床心理学の基本として、傾聴はとても大切です。
ただ、傾聴は単に「相手の話をよく聞くこと」だけではありません。
その前提には、セラピスト側のマインドがあります。
- すべての人は、今ある精一杯をやって、今ここにいる
- その人の中には、自分自身を助ける力やリソースがある
- その人なりに、よりよい方向へ動こうとする力がある
こうした前提があるからこそ、傾聴には意味があります。
もし支援者が心のどこかで「この人には何もできない」「この人は問題だらけだ」と思っていたら、いくら丁寧に話を聞いても、相手を支える関わりにはなりにくいかもしれません。
傾聴とは、相手の中に力があると信じて、その力が見えてくるまで関わることでもあります。
この点で、傾聴と利用性は深くつながっています。
「問題がある」ではなく「問題として浮かび上がっている」
相談場面では、クライアントさんや保護者、先生方が「これが問題です」と語ることがあります。
もちろん、その言葉を軽く扱うことはできません。
困っていること、苦しんでいること、現実に対応が必要なことはあります。
ただし、支援者がそのまま「それは問題ですね」と受け取るだけでは、視野が狭くなることがあります。
大切なのは、「これが問題である」と固定して見るのではなく、「この人は今、このことを問題として捉えている」と見ることです。
言い換えると、「問題がある」というより、「問題として今、目の前に浮かび上がってきている」という捉え方です。
このように見ると、少し余白が生まれます。
何かが変われば、この人は同じ出来事を問題として捉えなくなるかもしれない。別の文脈が生まれれば、問題の意味が変わるかもしれない。
その可能性を残しておくことが、解決志向の視点ではとても大切です。
問題に取り込まれすぎると、支援者の視野は狭くなる
スクールカウンセリングでは、緊急性の高い相談や、対応が難しいケースに出会うことがあります。
不登校、いじめ、家庭環境、発達特性、保護者との関係、先生方の疲弊など、複数の要因が絡み合っていることも少なくありません。
そのとき、相談者の問題だけに焦点を当て続けると、支援者自身も問題に取り込まれてしまうことがあります。
「何とかしなければ」と思うほど、かえって頭が硬くなる。
「この子の問題を解決しなければ」と考えすぎて、周囲にあるリソースが見えなくなる。
こうしたことは、初任者だけでなく、経験を重ねた支援者にも起こります。
特にGルートで公認心理師になり、これから学校臨床を学び直している方にとっては、「専門家としてちゃんと見立てなければ」という思いが強くなるほど、問題に焦点が寄りすぎることがあります。
だからこそ、問題を見る力と同時に、問題ではないものを見る力が必要になります。
困難な状況にこそ、解決志向の視点が役立つ
解決志向やブリーフセラピーは、困難を抱えた人を支援するために発展してきた方法です。
困難な状況にいる人ほど、「問題のある人」として扱われやすくなります。
しかし、その人を「問題のある人」として見始めると、支援はその人の否定から始まってしまうことがあります。
もちろん、現実的な困難を無視するわけではありません。
ただ、その人を問題そのものとして見ないこと。
その人の周りにある環境や関係も含めて、何が使えるのかを探していくこと。
この視点が、解決志向やブリーフセラピーの大きな特徴です。
スクールカウンセリングで利用性をどう活かすか
スクールカウンセリングでは、子ども本人だけに働きかければよいわけではありません。
むしろ、子どもを取り巻く環境や関係の中に、支援の糸口があることが多いです。
たとえば、保護者の中にまだ使われていない力があるかもしれません。
担任の先生の関わりの中に、少し変えるだけで子どもが安心しやすくなる要素があるかもしれません。
クラスの中に、その子にとって支えになる関係があるかもしれません。
本人のこだわりや苦手さの中に、その子らしい工夫やエネルギーが隠れていることもあります。
このように、スクールカウンセリングでは、個人だけでなく、状況そのものに働きかける発想が大切になります。
より正確に言えば、環境そのものをすべてコントロールするのではなく、環境との関わり方に目を向けるということです。
相互作用のパターンを見る
学校現場では、「子どもが問題を起こしている」と見える場面でも、よく見ていくと相互作用のパターンがあることがあります。
子どもが反発する。先生が注意する。さらに子どもが反発する。保護者が不安になる。学校も対応に困る。
このような流れの中で、誰か一人が悪いというよりも、関係のパターンが固定されていることがあります。
解決志向の視点では、そのパターンを丁寧に見ながら、どこに少し違う動きが入る余地があるかを探します。
- 子どもが少し落ち着けた場面はなかったか
- 先生とのやり取りがうまくいった例外はなかったか
- 保護者が少し安心できた瞬間はなかったか
そうした小さな例外を見つけることが、解決を構築する入り口になります。
例外を見る、解決を構築する
解決志向では、問題が起きていない場面や、少しだけうまくいっている場面を大切にします。
これを「例外」と呼ぶことがあります。
例外とは、問題がいつもより軽いとき、問題が起きなかったとき、少しだけ違う反応が起きたときのことです。
たとえば、不登校の子どもが毎日学校に行けないとしても、家で少し元気に過ごせる時間があるかもしれません。
教室には入れないけれど、保健室には来られる日があるかもしれません。
先生とは話せないけれど、ある職員とは少し話せるかもしれません。
その小さな違いを見つけていくことが、解決志向の臨床ではとても大切です。
解決は、支援者が一方的に与えるものではありません。
クライアントさんや子ども、保護者、先生方と一緒に、その場で構築していくものです。
保護者や教職員もリソースとして見る
スクールカウンセラー初任者は、子ども本人の支援に一生懸命になるほど、周囲の大人の力を見落としてしまうことがあります。
しかし、学校現場では、保護者や教職員の関わりが大きなリソースになります。
保護者の心配は、見方を変えれば子どもを大切に思う力でもあります。
先生の戸惑いは、何とかしたいという責任感の表れかもしれません。
学校の仕組みの硬さも、別の角度から見れば、子どもを守るための枠組みとして活かせることがあります。
もちろん、何でもよいものとして扱うわけではありません。
ただ、否定から入るのではなく、「この中で使えるものは何か」と見ていくことが、利用性の視点です。
解決志向はスクールカウンセラーのマネジメント力を育てる
スクールカウンセラーには、個別面接だけではなく、コンサルテーションや環境調整の力も求められます。
保護者への助言、教職員との情報共有、ケース会議、いじめや不登校の未然防止など、個人の内面だけでは扱いきれない場面が多くあります。
そうしたときに必要になるのが、マネジメントの力です。
ここでいうマネジメントとは、人を管理することではありません。
状況を見立て、関係を整え、リソースを見つけ、関係者が少し動きやすくなるように働きかける力です。
解決志向的な視点は、このマネジメント力を養ってくれます。
問題に飲み込まれず、子ども本人だけでなく、保護者、教職員、学校環境まで含めて見ることができるようになるからです。
チェックリスト
スクールカウンセリングで問題に取り込まれそうになったときは、次の視点を確認してみてください。
- 「問題がある」と固定して見ていないか
- 「この人は今これを問題として捉えている」と見られているか
- 本人の中にあるリソースを探せているか
- 保護者や教職員の中にある力を見ようとしているか
- 問題が少し軽くなる例外を探せているか
- 環境そのものではなく、環境との関わり方に目を向けているか
- 支援者自身が問題に取り込まれすぎていないか
- 関係を作りながら見守るバランスを意識できているか
まとめ
ブリーフセラピーや解決志向の核心には、利用性という哲学があります。
利用性とは、クライアントさんの内側にあるものだけでなく、環境、関係、状況、一見すると問題に見えるものまで、支援のために活かしていく考え方です。
スクールカウンセリングでは、この視点がとても役立ちます。
子ども本人だけを見ていると、支援者自身が問題に取り込まれてしまうことがあります。
しかし、保護者、教職員、学校環境、相互作用のパターンまで含めて見ると、支援の選択肢は少し広がります。
問題を否定するのではなく、問題として浮かび上がっているものの周囲にあるリソースを見る。
その視点が、初任者のスクールカウンセラーやGルートの公認心理師に、臨床の柔軟さと視野の広さを与えてくれるのだと思います。
■ よくある質問(FAQ)
Q. 子どもの問題行動は、どう見守るべき?
A. まずは問題行動だけに注目しすぎず、その行動がどのような状況や関係の中で起きているのかを見ることが大切です。見守るというのは放置することではなく、本人の力や周囲のリソースを見つけながら、必要な関わりを考えていくことです。
Q. 不登校の子どもにスクールカウンセラーはどう関わったらいい?
A. 「登校できるかどうか」だけを見ると、関わりが硬くなりやすいです。家で少し元気に過ごせる時間、話せる相手、安心できる場所など、すでにあるリソースを見つけることが大切です。その上で、本人や保護者、学校と一緒に現実的な一歩を考えていきます。
Q. 子どもがゲームやスマホばかりのとき、どうしたらいい?
A. すぐに依存と決めつけるのではなく、その子にとってゲームやスマホがどのような役割を持っているのかを見ることが大切です。安心、つながり、達成感、退屈の回避など、背景にあるものを理解することで、関係を壊さずに次の関わりを考えやすくなります。
Q. 保護者が不安でいっぱいのとき、スクールカウンセラーはどうしたらいい?
A. 保護者の不安を「過剰」と見るだけではなく、子どもを大切に思う気持ちの表れとして受け止めることが大切です。その上で、保護者がすでにできていること、子どもとの関係の中で支えになっていることを一緒に確認していくと、関わりが少し整理されることがあります。
Q. 先生とうまく連携できないときはどうしたらいい?
A. 先生の対応を否定する前に、先生が何を守ろうとしているのか、どこで困っているのかを見ることが大切です。先生もまたリソースの一部です。関係を作りながら、少しでも使える情報や関わり方を一緒に探していくことが、学校現場では大切になります。
リンク
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