「問題を解決する」より「関係を育てる」ことが先である理由
目次
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- 支援者の「早く何とかしたい」という焦りは、善意から生まれることが多い。
- しかし、関係が育つ前の解決策は、相手にとって「正論による圧力」になりやすい。
- 変化は、「この人の前では本当のことを言える」という関係の中で起こりやすい。
- 支援では、問題を急いで動かすより、関係を育てながら見守るバランスが大切になる。
問題は、解決策だけで動くのではなく、その人が安心して本当のことを言える関係の中で、少しずつ変化していくものだと思います。
「早く何とかしなければ」という罠
不登校の子どもを前にしたとき、保護者から相談を受けたとき、ケース会議で担任の先生が疲弊した顔をしているとき。
支援者として最初に感じやすいのは、「早く何とかしなければ」という焦りです。
この焦りは、悪意から来るわけではありません。むしろ善意から来ています。相手が苦しんでいるのを見て、なんとかしてあげたいと思う。その気持ち自体は、とても自然なものです。
臨床心理士や公認心理師として働いている人の多くは、そういう気持ちをどこかに持っているのではないでしょうか。
ただ、この「早く何とかしたい」という気持ちが、支援のスタート地点を少しずらしてしまうことがあります。
「解決」が先に来るとき、何が起きているか
たとえば、不登校の子どもを持つお母さんが相談に来たとします。
話を聞いていると、「もう半年も学校に行けていない」「このままじゃ将来が心配」「どうしたら学校に戻れますか」という言葉が出てくる。
このとき、支援者としてはすぐに提案したくなります。
- まずは生活リズムを整えてみましょう
- 別室登校から始めてみましょう
- 登校の練習を少しずつしてみましょう
もちろん、こうした提案が役に立つ場面もあります。内容そのものが間違っているわけではありません。
でも、少し立ち止まって考えたいのです。
このお母さんは、本当に今すぐ「解決策」だけを求めて来ているのでしょうか。
半年間、誰にも相談できずに一人で抱えてきたかもしれない。夜眠れなかったかもしれない。「自分の育て方が悪かったのか」と自分を責めてきたかもしれない。学校から連絡があるたびに、胸が締め付けられてきたかもしれない。
その人に今いちばん必要なのは、「登校させる方法」ではなく、「この人はわかってくれる」という感覚かもしれません。
関係が育つ前の解決策は「正論による圧力」になりやすい
解決策が悪いわけではありません。
問題は、関係が育つ前に解決策が出てくることです。
関係がまだ十分に育っていない状態で渡される解決策は、どれだけ正しくても、相手にとっては「正論による圧力」になりやすいものです。
「生活リズムを整えることが大切です」
「少しずつ登校練習をしてみましょう」
これらは、支援の言葉として間違っているわけではありません。
けれど、信頼関係ができる前に言われると、相手の心の中では「そんなこと、とっくにやってみた」「わかってくれていない」という壁ができてしまうことがあります。
壁ができた瞬間、その後の支援は空回りし始めます。こちらが頑張れば頑張るほど、相手が遠ざかっていく。
これは、臨床現場にいる支援者なら、多かれ少なかれ経験したことがある感覚ではないかと思います。
「関係」が変化を生むとはどういうことか
では、「関係が先に来る」とは、どういうことでしょうか。
僕の理解では、それは「この人の前では本当のことを言える」という感覚が、相手の中に育つことです。
人は、本当のことを言える関係の中でこそ、本当の意味での変化が起きやすくなります。
たとえば、相談の中でこんな言葉が出てくることがあります。
- 本当は学校に戻ってほしい気持ちと、無理させたくない気持ちが両方ある
- 子どもを責めたくないのに、時々怒鳴ってしまう自分が嫌だ
- 夫は楽観的すぎて、相談できる気がしない
こういう言葉が出てきたとき、その場には変化の芽が生まれています。
まずはこういった本音を受け止めることから始めなければいけません。
解決策は、この変化の芽が出たあとに、はじめて土に刺さるようになります。
逆に言えば、関係が育たないまま解決策だけを差し出しても、それはなかなか根づきません。
「関係を育てる」は「何もしない」ではない
ここは誤解されやすいところです。
「関係が先」というのは、「しばらく何もしないで待つ」という意味ではありません。
関係を育てることは、それ自体がかなり積極的な関わりです。
- 相手の話を途中で遮らない
- 解決策が浮かんでも、すぐ口に出さない
- 「大変でしたね」で終わらせず、具体的に何が大変だったのかをもう少し聞く
- 相手の中の矛盾を責めず、「その気持ちが両方あるんですね」と扱う
これは一見、受動的な関わりに見えるかもしれません。
しかし実際には、とても能動的な技術が必要です。
むしろ、「早く解決策を出す」よりも、ずっと難しいことかもしれません。
問題より先に「その人」を見る
10年以上スクールカウンセラーをしてきて、今振り返ると、後悔していることのひとつは、早く解決しようとしすぎた時間のことです。
技法を学べば学ぶほど、「この状況にはこのアプローチ」という引き出しは増えていきます。
それ自体は、とても大切なことです。支援者として学び続けることは必要です。
ただ、引き出しが増えると、目の前の人より先に「この人の問題は何か」を探してしまうことがあります。
問題を先に見ると、その人の全体が見えにくくなります。
「不登校の子どもを持つ保護者」ではなく、「○○さんというひとりの人間」として見ること。
その人がどんな世界を生きていて、何を大切にしていて、何に疲弊しているのか。
それを一緒に眺める関係が育ってはじめて、支援は支援として届きやすくなるのだと思います。
チェックリスト:解決を急ぎすぎていないか
臨床場面で、自分の関わりを振り返るときには、次のような視点が役に立ちます。
- 相手の話を聞く前に、提案を考え始めていないか
- 「早く何とかしなければ」という焦りが強くなっていないか
- 相手がすでに試したことを確認しないまま助言していないか
- 相手の矛盾や迷いを、すぐ整理しようとしていないか
- 「この人は本当は何を抱えているのか」を一緒に見ようとしているか
- 見守りと介入のバランスを考えられているか
まとめ
支援者が「早く何とかしたい」と思うのは、とても自然なことです。
けれど、その焦りが強くなると、相手の前にいるはずなのに、いつのまにか「問題」だけを見てしまうことがあります。
解決策は大切です。技法も大切です。見立ても、方針も、具体的な提案も必要です。
ただ、それらが相手に届くためには、その前に「この人の前では本当のことを言える」という関係が必要になります。
問題は、解決するものというより、関係の中で少しずつ変化していくものなのかもしれません。
臨床では、急いで動かすことよりも、相手の世界を一緒に眺めること。見守りながら、必要なところで関わること。そのバランスがとても大切なのだと思います。
■ よくある質問(FAQ)
Q. 不登校の子どもに、早く学校へ行けるように働きかけるべき?
A. 早く何とかしたいと思うのは自然なことです。ただ、本人や保護者との関係が育つ前に登校だけを目標にすると、支援が圧力として伝わることがあります。まずは、本人や保護者が何に困っていて、何を不安に感じているのかを一緒に確認することが大切です。
Q. 見守りだけで、不登校が長引いてしまわないか心配です。どうしたらいい?
A. 見守りは「何もしない」という意味ではありません。本人の状態を観察し、保護者の不安を整理し、学校との関係を調整しながら、必要なタイミングで小さく関わることです。大切なのは、放置でも強引な介入でもなく、関係を保ちながら現実的な一歩を探すことです。
Q. 子どもがゲームばかりしているとき、依存として注意した方がいい?
A. ゲームの時間だけを見ると心配になるのは当然です。ただ、すぐに「依存」と決めつけると、本人との関係が悪くなることもあります。ゲームがその子にとって避難場所なのか、楽しみなのか、人とのつながりなのかを見ながら、生活全体のバランスを一緒に考えていくことが大切です。
Q. 保護者が焦っているとき、支援者はどう関わればいい?
A. まずは、焦りを否定しないことが大切です。「焦らないでください」と言われるほど、保護者は孤立することがあります。焦るほど心配してきた背景を聞き、その上で、今すぐ動かすことと、少し待った方がいいことを一緒に整理していく関わりが役に立ちます。
Q. 関係を大切にすると、専門家として何も提案できなくなりませんか?
A. 関係を大切にすることと、提案しないことは同じではありません。むしろ、関係が育つことで、提案が相手に届きやすくなります。大切なのは、正しいことを早く言うことではなく、相手が受け取れる形とタイミングで伝えることです。
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この記事は「臨床心理学超基礎講座」の内容をもとに書いています。
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