スクールカウンセラーの守秘義務と情報共有|学校で信頼関係を壊さないために大切なこと
目次
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- スクールカウンセラーの守秘義務は、「何も話さないこと」ではなく、子どもの利益を守るための構造です。
- 教員が求める情報と、心理職が守るべき情報は、目的や使われ方が異なることがあります。
- 大切なのは、何を伝えるかだけでなく、誰に、どの範囲で、どのように伝えるかを考えることです。
- 学校の中で機能するためには、守秘と共有のバランスをとりながら、関係を丁寧に見守る姿勢が必要です。
スクールカウンセラーの守秘義務は、情報を抱え込むためのものではなく、子ども・保護者・教員との関係を壊さず、支援を前に進めるための大切な枠組みです。
はじめに:守秘義務は「守る」だけではうまくいかない
スクールカウンセラーとして学校に入ると、早い段階で悩むのが「どこまで情報を共有してよいのか」という問題です。
子どもが相談室で話してくれたことを、どこまで担任の先生に伝えるのか。保護者に伝えるのか。管理職に共有するのか。
もちろん守秘義務があるので、相談の内容というのは基本的には伝えることができません。
一方で、先生からすると「なんでうちの生徒とカウンセリングをしたのにその内容を秘密にするんだ?」と感じることがあります。
ここに、学校現場における守秘義務の難しさがあります。
心理職の側から見ると「守秘義務を守る」ことは当然です。しかし学校の先生の側から見ると、「必要な情報を教えてくれない」「何をしているかわからない」「相談室の中で何が起きているのかわからない」と見えることがあります。
これを放置すると、スクールカウンセラーは学校の中で孤立してしまいます。
教員が求める情報と、心理職が守るべき情報は何が違うのか
教員が知りたい情報は、多くの場合、学校生活に直接関わる情報です。
たとえば、次のようなことです。
- 学校生活で何に困っているのか
- 友人関係で何が起きているのか
- 担任や教科担当との関係で何が負担になっているのか
- 今後、登校や進路にどう関わればよいのか
つまり教員は、「明日からどう関わればよいか」を知りたいのです。
一方で、心理職が面接の中で扱っている情報は、必ずしもすぐに指導や対応に使える情報ばかりではありません。
子どもの内面の揺れ、家庭での事情、過去の体験、先生に対する不満、友人への複雑な感情など、本人が「この人だから話せた」と感じている内容もあります。
それをそのまま共有してしまうと、子どもにとっては裏切られた体験になります。
ここで大事なのは、教員と心理職のどちらが正しいかではありません。
見ている焦点が違うのです。
教員は、学校生活の中でその子をどう支えるかを考えています。心理職は、その子が安心して話せる関係や、内側で起きていることを大事にしています。
この違いを理解しないまま「守秘義務ですから言えません」とだけ伝えると、関係はこじれやすくなります。
「言えません」と断るだけでは信頼関係が崩れることがある
もちろん、子どもの利益を守るために、言えないことはあります。
しかし学校現場では、「言えません」という言葉だけでは足りないことがあります。
先生からすると、「なぜ教えてくれないのか」「自分は信用されていないのか」「相談室で自分の悪口を言われているのではないか」と感じることもあります。
これは、先生が悪いという話ではありません。
先生には先生の責任感があります。毎日子どもと関わり、保護者対応をし、学級全体を見ながら、その子のことも心配しています。
その中でスクールカウンセラーが子どもと面接をして、何も共有しないままだと、不信感が生まれるのは自然なことです。
だからこそ、スクールカウンセラーには「断れる力」と同時に、「断っても関係を壊さない力」が必要になります。
大切なのは、最初に共有の枠組みを作っておくこと
情報共有で迷わないためには、後から考えるのではなく、最初に枠組みを作っておくことが大切です。
たとえば、子どもと会う前に先生に確認します。
「この子について、先生としてはどんなことが気になっていますか」
「スクールカウンセラーが関わることで、どんなことが起こるとよさそうですか」
「どんな情報が共有できると、学校での支援に役立ちそうですか」
このように、先生のニーズを先に聞いておくことが大切です。
スクールカウンセリングでは、子どもが自分から相談に来る場合もあれば、先生や保護者に勧められて来る場合もあります。
特に、先生や保護者からの紹介で来る場合、子ども本人は相談したいと思っていないこともあります。
そのようなときに、何の枠組みもなく会ってしまうと、あとから「この情報は共有していいのか」「先生には何を伝えればいいのか」と迷うことになります。
だからこそ、最初に「この相談は何のために行うのか」「どの範囲を共有するのか」を整理しておく必要があります。
子どもと一緒に「どこまで共有するか」を考える
子どもが相談の中で学校への不満を話すことがあります。
たとえば、「先生の声が大きくて怖い」「友だちにきついことを言われている」「教室にいるのがしんどい」といった話です。
そのときに、スクールカウンセラーが勝手に先生へ伝えてしまうと、子どもは「言わないでほしかった」と感じるかもしれません。
一方で、何も共有しなければ、学校での支援は進みにくくなります。
このときに大切なのは、子どもと一緒に共有の仕方を考えることです。
「この部分は先生と共有した方が、少し楽になるかもしれないと思うんだけど、どうかな」
「こういう言い方なら先生に伝えやすいと思うんだけど、それなら大丈夫そう?」
「全部ではなく、この部分だけ伝えるという方法もあるよ」
このように、子どもの安心を守りながら、学校支援につながる共有の道を探していきます。
守秘義務は、子どもの言葉を密室に閉じ込めるためのものではありません。
子どもが安心して話せる関係を守りながら、必要な支援につなげるためのものです。
先生のアセスメントも必要になる
スクールカウンセラーは、子どもや保護者だけを見ていればよいわけではありません。
学校で働く以上、先生のアセスメントも必要になります。
この先生には、どの程度まで情報を共有してよいのか。
この学年団では、情報がどのように扱われるのか。
管理職は守秘や共有について、どのような感覚を持っているのか。
こうしたことを見ながら、共有の範囲や伝え方を調整していく必要があります。
たとえば、子どもが「友だちにきついことを言われている。でも先生には言わないでほしい」と話したとします。
その情報をそのまま先生に伝えた結果、先生がすぐに相手の子を呼び出して指導してしまうことがあります。
先生としては善意で対応しているつもりでも、子どもからすると「スクールカウンセラーが話した」と感じます。
そうなると、相談関係は壊れてしまいます。
だからこそ、情報そのものだけでなく、その情報が共有された後にどう使われるかまで考える必要があります。
学校文化と心理職の文化の違いを理解する
学校には学校の文化があります。
心理職には心理職の文化があります。
心理職の側からすると、面接の構造を守ること、守秘義務を守ること、本人の同意を大切にすることは当然です。
しかし、それをそのまま学校に持ち込むだけでは、うまくいかないことがあります。
学校は、チームで子どもを支える場所です。
担任、学年主任、養護教諭、管理職、生徒指導担当、特別支援教育コーディネーターなど、複数の人が関わっています。
その中でスクールカウンセラーだけが「臨床心理のルール」を強く押し出しすぎると、学校の中で浮いてしまうことがあります。
もちろん、学校に合わせすぎて、何でも共有してよいわけではありません。
学校文化にのみ込まれるのではなく、心理職としての専門性を持ちながら、学校の中で機能する形を探すことが大切です。
情報共有は「何を話すか」だけでなく「どう伝えるか」
情報共有で重要なのは、内容だけではありません。
どう伝えるかが非常に大切です。
同じ情報でも、伝え方によって先生の受け取り方は変わります。
たとえば、「本人が先生のことを怖いと言っています」とそのまま伝えると、先生は責められたように感じるかもしれません。
一方で、「本人は大きな声に少し緊張しやすいところがあるようです。声のかけ方を少し調整すると、教室で安心しやすくなるかもしれません」と伝えると、支援の方向に話が進みやすくなります。
これは、子どもの本音を隠すということではありません。
子どもの利益を守りながら、先生が支援に参加しやすい形に翻訳するということです。
スクールカウンセラーには、この「翻訳する力」が求められます。
守秘と透明化のバランスを考える
スクールカウンセリングでは、守秘だけでなく、透明化も大切です。
透明化とは、「この情報は誰と共有するのか」「どの範囲で共有するのか」をあらかじめ明らかにしておくことです。
最初から共有する前提で話している情報であれば、共有しても裏切りにはなりにくいです。
しかし、「これは秘密にしておく」と言っていた情報を、あとから勝手に共有すれば、それは裏切りになります。
大切なのは、すべてを秘密にすることでも、すべてを共有することでもありません。
本人の安全と利益を守るために、どこを守り、どこを共有するのかを丁寧に考えることです。
初任者が意識したいチェックリスト
- 子どもと会う前に、先生のニーズを確認しているか
- 相談の目的を、先生・子ども・保護者とできる範囲で共有しているか
- 子どもに、どこまで先生に伝えてよいか確認しているか
- 情報を伝えた後、先生がどう動くかを想像しているか
- 「言えません」だけで終わらず、支援につながる別の伝え方を考えているか
- 学校文化と心理職文化の違いを意識しているか
- 守秘と共有のバランスを、関係の中で見守っているか
まとめ:守秘義務は、関係を閉じるためではなく支援を開くためにある
スクールカウンセラーの守秘義務は、とても大切です。
しかし、それは「何も話さないこと」ではありません。
子どもが安心して話せる場所を守りながら、学校の中で必要な支援が届くように調整していくことが求められます。
そのためには、先生のニーズを聞くこと、子どもと共有範囲を相談すること、伝え方を工夫すること、学校の情報共有の文化を見立てることが必要です。
守秘義務は、心理職だけのルールとして振りかざすと、学校の中で孤立を生むことがあります。
一方で、学校に合わせすぎて何でも共有してしまえば、子どもとの信頼関係が壊れてしまいます。
この間で揺れながら、関係を見守り、必要な情報を必要な形でつないでいくこと。
そこに、スクールカウンセラーの専門性があります。
■ よくある質問(FAQ)
Q. スクールカウンセラーは、子どもが話したことを担任に伝えるべき?
A. すべてを伝えるわけではありません。子どもの安全や学校生活の支援に必要な情報は、本人と相談しながら共有することがあります。ただし、本人が安心して話せる関係を壊さないように、共有する範囲や伝え方を丁寧に考える必要があります。担任がどう活かすか分からない情報は伝える必要はありません。
Q. 先生から「何を話したの?」と聞かれたらどうしたらいい?
A. その場で単に「言えません」と返すだけでは、関係がこじれることがあります。「詳しい内容は本人の安心のために守りたいのですが、学校での支援につながる、確実に本人の利益になるであろう部分は整理して共有します」といった形で、守秘と協働の両方を伝えることが大切です。
Q. 子どもが「先生には言わないで」と言った場合、絶対に伝えない方がいい?
A. 基本的には本人の安心を大切にします。ただし、安全に関わることや、学校で支援が必要なことについては、本人と相談しながら共有の方法を探します。「全部伝える」か「何も伝えない」ではなく、どの部分なら共有できるかを一緒に考えることが大切です。
Q. スクールカウンセラーと教員の関係が悪くならないためにはどうしたらいい?
A. 最初に、先生が何を心配しているのか、どんな支援を期待しているのかを聞いておくことが大切です。そのうえで、共有できることと守る必要があることを丁寧に説明します。日頃から小さな情報共有を積み重ねることで、関係の土台が作られます。
Q. 守秘義務を守ることと、チームで支援することは矛盾しますか?
A. 矛盾することもありますが、必ずしも対立するものではありません。守秘義務は子どもの安心を守るためにあり、チーム支援は子どもの生活を支えるためにあります。大切なのは、どちらか一方に偏らず、子どもの利益を中心にバランスを取ることです。
リンク
スクールカウンセリングの基本的な動き方や、学校現場での関係づくりについては、以下の講座でも詳しく扱っています。
体験オンラインスーパービジョン
スクールカウンセラーとして学校に入ると、守秘義務、情報共有、教員との関係づくり、保護者対応など、教科書だけでは整理しきれない悩みが出てきます。
特に初任の頃は、「これは共有してよかったのか」「先生との関係が悪くならないか」「子どもの信頼を裏切っていないか」と迷う場面が多いと思います。
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