【NFBT2018レポート】グレゴリー・ベイトソン入門ワークショップ
日本ブリーフサイコセラピー協会の学術研究会に参加してきました。
3日目のワークショップは生田倫子先生と松本宏明先生のベイトソン入門というワークショップに参加しました。
グレゴリー・ベイトソン
グレゴリー・ベイトソンは人類学、心理学、精神医学、民俗学等の広範囲な分野を専門とする学者さんです。
ダブルバインド仮説で有名な方で、家族療法の父とも呼ばれています。
ダブルバインドとは・・・
そんなベイトソンが生涯関わり続けた、ものの見方で『サイバネスティック』というものがあります。
「サイバネティックスってなんだ?」って感じですよね。
生田先生が「フィードバック機構を持つもの全て」「自己制御機構をのメカニズムを持つものすべて」とお話しされていました。
家族や、この場での人間関係というものは、全てシステムとも言えます。
あまりにランダム過ぎて予測不可能な状態は、人間にとって負荷が高いため、パターンを作ってしのごうとします。
そして一度相互作用としてのパターンを作ってしまったら、そのパターンが自然と維持されるという傾向があります。
サイバネティックス
生田先生のしてくれた例え話をベースに書いてみました。
例えば、このワークショップはベイトソンについて学ぶという目的をもって集まったシステムであると言えますね。
もしも、その最中に、講師の生田先生が何の脈絡もなく歌い出したとします。
最初は何か意図があるのかしらと見守るかもしれませんが、きっと聴衆はザワザワとなり、皆もう1人の講師の松本先生のことを見ることでしょう。
そうすると、サイバネティックスの仕組みが作動します。
聴衆が自分のことを見ている=なんとかしろ
というメッセージをフィードバックされた松本先生は、生田先生に「そろそろ歌やめていただければ・・・」と言います。
つまり講師がベイトソンについて話し、聴衆が聞く、という一つのやり取りのパターンというか構造(注)ができているので、話す役割の生田先生が歌い始める、パターンにない新しいことをすることで、それを元に戻そうとする新しい動きが自然に出てくるのです。
(注:生田先生より)ここ難易度が高いとこなんだけど、構造というのは多くの場合静止画みたいなものなの。このシステムのフィードバックというのは動画。つまり時系列で動き続けている。ムーブメント。だから構造という言葉は使わない方がよい。
それが自己制御機構というものなのでしょう。
終わらない歌唱
ところが、松本先生が「やめてください」と言っても、生田先生は気にせずまだまだ歌い続けたとします。
会場はざわつき続けます。
松本先生は聴衆の「なんとかしてくれ」という視線やザワツキを感じながらも、すでにノリに乗っている生田先生を止めることもできず途方に暮れてしまいます。
ここにまた一つのサイバネティクスシステムが生まれた、と言ってもいいのでしょうか。
システムというのは単なるものの見方なので、どういう風に概念をくくるかは自由なのです。
なので、この状態はベイトソンを学ぶ目的のシステムが崩壊しそうな状態という風にも見ることができますし、生田先生の問題行動が、それを止められない聴衆によって維持されているシステムが新たに生まれたと考えることもできます。
カウンセリング場面のこととして考えてみる
例えばそのシステム自体がパターンを維持することがいつの間にか目的となってしまって、誰かが変えようとしても、自己制御機構があるので、なかなか変化しません。
しかし、システムというのはずっと動き続けているものなので、たまに例外が出てきます。
歌い続けている生田先生はだんだんのどが渇いてきて、ペットボトルの水を飲もうとします。
水を飲んでいる間は歌うことができないので、聴衆は「おお~」と水を飲んでいる生田先生に注目し、松本先生は今だ!とばかりに話しかけようとします。
このように、システムというのは時系列で動き続けているので、自然とパターンからそれる事態が起こります。これは、システムの逸脱と言ったりもします。システムというのはパターンの維持(サイバネティックス)と逸脱の2側面を持ちつつ動いています。
ここで、生田が水を飲んでいる間に松本先生がベイトソンについて話はじめ、すると生田は松本先生が話しているから聞いていなければならない、という状況が続くならば、これはシステムの逸脱によってシステムの変換性が作動したと考えることができます。
そしてこの状態は、たとえば松本先生が「生田先生、黙って聞いてくれてありがとうございます。もう少し私に話させてください。」と伝えたりすると、意外と維持されたりもします。
日本ブリーフセラピー協会では、SFA解決志向アプローチの例外の拡張というのを、このようにシステム論の変換性という観点から説明できるとして、システムの表裏つまりダブルディスクリプションモデルとして説明しています。
ちなみにアメリカやヨーロッパではこのようには説明されてませんので、日本独自の説明といえるでしょう。
例外を拡張する
先ほどの続きですが、ところが喉が潤った生田先生は、松本先生の言葉を一切気にせずにまた歌い始めてしまったとします。
松本先生は、なんとかまた歌を中断させるためにはどうしたらいいのか考えて、先ほど起こった「水を飲んでいる間は歌えない」という例外的な状況を再び出現させようとしました。
部屋の暖房を強くしたり、生田先生の前にコーラやオレンジジュースを並べたり。
例外を広げてもとの構造に戻そうとする松本先生。
これはサイバネティックスですね。
新しいシステムの登場
ところがそれでも生田先生は歌をやめようとしません。
だんだん聴衆も、これは生田先生の歌を聞くいい機会だなと歌を聴くようになっていました。
歌唱にはいよいよ熱が入り、目を潤ませた聴衆の中からはすすり泣きが聞こえてきます。
松本先生は「もうこうなったら諦めるしかないか」と、ため息をつきつつ、歌声に耳を澄ませてみると、確かにその歌声と旋律には、心を揺さぶるような、胸の奥のほうを押し上げられるような何かがあるような気がしました。
「一体俺は今日ここに何をしに来たんだろう?いや、そもそも何をするために今まで生きてきたのだろう」
この状態は、完全に「ベイトソンについて学ぶシステム」が崩壊し、「生田の歌声を聴くシステム」が生まれた状態です。
そんなことをぼやーっと考えているうちに、最後のファルセットが高く響き渡り、ふと途切れ、授業の終了を告げるチャイムが鳴りました。
いつまでも止まないスタンディングオベーションに対して、笑顔で手を振りながら「じゃ後よろしくお願いしまーす」と、にこやかに笑いかけて去っていく生田先生を見送る松本先生でした。
まとめ・・・世界は崩壊に向けて動いている
ブリーフセラピーでは、松本先生がやったように、たまたま起こった例外を膨らましていって、新しいパターンを回したり。
あえてそのパタンの維持するために必要な要素を変化させることによって、新しいパターンを増していくという介入方法を使ったりします。
カウンセリングを行う者は、個人内の精神力動のみならず、コミュニケーションとしての力学を理解し、目の前の相談者にとっての目的に合った介入を考えていく必要があるのかもしれません。
ちなみこのパターン、システムを壊れないように守る力のことを逆行、ネガティブフィードバックと呼び、崩壊に向けて動くのを順行、ポジティブフィードバックなどと呼んだりするようです。
システムは必ず崩壊に向かって常に動いているんです。
そしてシステムには、そのシステムを維持しようとする自己制御機能が必ず備わっています。
つまり、この世界で起きる物事は、崩壊しようとする力と、守ろうとする力の引っ張り合い、相互作用であるといえるかもしれません。
連想・・・人の集まりや物語は全てサイバネティック
グレゴリーベイトソンについても一知半解の状態でこんなことを書くのもなんですが。
この話を聞いていていて、中高生のころに読んでいたロードス島戦記というファンタジー物の小説のことを思い出していました。
その物語の中で「灰色の魔女」という500年も生きてきた魔法使いがとても重要な役割をこなすのですが。
彼女は今の世界の崩壊をさせないために、白にも黒にも染まらないように、常に灰色の状態にとどまるように、戦争を起こしてコントロールしたり、重要人物を暗殺したりとロードス島の歴史に働きかけてきて、もうすでに500年も生きているという人物でした。
子どものころに夢中になってみていた勧善懲悪のヒーローものも、なんだかよくわからない理由で世界を征服しようとするのを、なんか許せなくて阻止するみたいな話も、ワンピースみたいな漫画も含めて、みんな今の状態を守ろうとする人や、そこを変えたい人や、意図なく変えてしまう人々の物語だったりして。
道教の陰陽思想や、いろんな物語そのものがサイバネティクスの側面を持つのも当たり前なのか・・・。
あと、学会が分裂したり、武道の流派が分裂したりするのも、「いや、そもそも崩壊に向けて動いてるんだから、人集まればサイバネティクスなわけだから当然じゃない?」とかぼーっと考えながら聞いてました。
(注:生田)最後に、システムというのはものの見方に過ぎないということと、字にするととってもうっとうしいけど、目の前に人間関係を見ながらあてはめれば、超絶どうってことない話なんですよ。
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