グロリアと3人のセラピストから考える「自己一致」とは何か──ロジャース・パールズ・エリスを見比べて感じたこと
■ 結論
- ロジャース・パールズ・エリスは方法は大きく異なるが、それぞれ「自己一致」を目指していたように感じられる。
- 同じ目的でも、セラピストがどの立場から関わるかによって面接の雰囲気は大きく変わる。
- 技法だけでなく、セラピスト自身がどれだけ自然体で関われているかも重要な要素である。
- カウンセリングも子育ても、相手との関係の中で「あるがまま」と「関わること」のバランスを考え続ける営みなのかもしれない。
技法の違いに目を向けるだけではなく、その奥にある「人はどう変わるのか」という考え方を見ることで、カウンセリングへの理解はより深まります。
大学院の授業で毎年見返している映像
大学院では毎年、「グロリアと3人のセラピスト」という映像を学生と一緒に見てディスカッションをしています。
この映像には、カール・ロジャース、フリッツ・パールズ、アルバート・エリスという、それぞれ異なる立場の心理療法家が、一人のクライエントであるグロリアと面接する様子が収められています。
毎年見ていますが、不思議なことに、そのたびに新しい発見があります。
今年は前期最後の授業で学生たちと見ることになりました。
学生たちはかなり驚いていました。
これまで学んできた「カウンセリングとは傾聴するもの」「助言はできるだけしない」「セラピストは話し過ぎない」というイメージとは、あまりにも違う面接が目の前で展開されたからです。
パールズは時に挑発的で、エリスは積極的に考え方を説明し、説得しようとします。
「これもカウンセリングなのか」という驚きがあったようでした。
方法は違っても、目指していたものは似ていた
今回改めて感じたのは、パールズとエリスは、一見まったく違うように見えて、どちらもグロリアが自己一致した状態になることを目指していたのではないか、ということでした。
パールズは、日本語字幕では「偽善」という言葉が使われていましたが、グロリアが無意識に抱えている固定観念を揺さぶろうとしていました。
例えば、
- 年上の男性とはこう接するもの
- 女性とはこうあるべき
- 母親とはこうあるべき
といった、自分でも疑っていない前提を少しずつ剥がしていこうとしているように見えます。
そして、自分の本当の気持ちと態度が一致した状態を目指していました。
一方、エリスは違うアプローチでした。
白黒思考や極端な考え方を例に挙げながら、「もっと柔軟に考えられるのではないか」と心理教育を行っていました。
面接後のインタビューでは、「時間がもっとあれば、さらに説得したかった」という趣旨の話もしていました。
つまりエリスは、「正しい知識を伝える」という立場を最後まで保っていたように感じました。
ただ、印象的だったのは、単に説明するだけではなく、その後に実際の行動につなげようとしていたことです。
心理教育と行動実験がセットになっていました。
これは現在の認知行動療法にも通じる考え方だと感じます。
「知らない立場」と「教える立場」
もう一つ興味深かったのは、二人の立ち位置の違いです。
パールズは、「患者のことは患者自身が一番知っている」という姿勢でした。
だからこそ、時に挑発的とも思える関わりを使いながら、その人自身の中にあるものを引き出そうとしていました。
現在でいう「Not Knowing」の立場に近いようにも感じます。
それに対してエリスは、「私が説明しましょう」「考え方を教えましょう」という教育的な立場です。
ノットノーイングではなく、専門家として知識を提供する姿勢でした。
面白いのは、求めているものは似ているのに、そこへ向かう立場がまったく違うことです。
さらに印象としては、エリスは非常に丁寧で紳士的でした。
一方でパールズは、横柄にも失礼にも見えるような話し方をします。
エリスの話を聞いている時のグロリアの表情はどんどん固くなっていきましたが、パールズとのやり取りでグロリアは、怒ったり当惑したりイライラしたり安堵したりと様々な表情を見せてくれています。
相互作用という目線でこのやりとりを見てみるのも大きな学びになるかもしれません。
では、ロジャースは何を目指していたのか
ロジャースはさらに違う立場だったように思います。
ロジャースは、セラピスト自身が自己一致していることによって、クライエントも自然と自己一致へ向かっていくと考えていたのではないでしょうか。
だからこそ、無理に変えようとはせず、評価も説得もできるだけ控えます。
セラピスト自身が自然体でいることが、関係そのものを変化させる力になる。
そんな立場だったように感じました。
「あるがまま」はさまざまな心理療法につながっている
自己一致という言葉を考えていると、「あるがまま」という言葉にも自然とつながってきます。
森田療法も、マインドフルネスも、「今ある体験を否定せず、そのまま受け止める」という考え方を大切にしています。
もちろん理論も方法も異なります。
しかし、人が自分自身とのズレを少しずつ減らしていくという意味では、どこか共通するものがあるように感じます。
3人とも、自分自身に一致していた
最後に印象に残ったのは、3人とも、自分が信じるやり方で精一杯グロリアと向き合っていたことです。
方法はまったく違います。
しかし、誰かの真似をしているようには見えませんでした。
それぞれが、自分自身の信念に従って関わっていました。
そう考えると、3人のセラピスト自身が、ある意味では自己一致していたとも言えるのかもしれません。
私自身も改めて考えさせられました。
普段カウンセリングをしているとき、自分はどれくらい自然体でいられているだろうか。
無理に技法を使おうとしていないだろうか。
あるがままでいることと、専門家として関わることは、どのように両立できるのだろうか。
そんなことを改めて考える時間になりました。
チェックリスト
- 技法だけでなく、その背景にある考え方を意識している
- 自分の立場が「教える側」だけになっていないか振り返っている
- 相手が本来持っている力を信じようとしている
- 自分自身が自然体で関われているか考えている
まとめ
ロジャース、パールズ、エリスは、一見するとまったく違うやり方で面接を行っています。
しかし、その奥にある「人が自分らしく生きられるようになる」という願いには共通するものがあるように感じました。
技法を学ぶことは大切です。
同時に、その技法を使う自分自身が、どれだけ自然体でいられるかも、カウンセリングや親子関係を支える大切な要素なのではないでしょうか。
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