臨床の知識は、どうしたら「使える知恵」になるのか
今日は、「臨床って、どうやったら上手くなるんだろう」という話をしてみたいと思います。
研修に出たり、本を読んだりしていると、知識は増えていきます。「ああ、なるほど。こういうふうに質問すればいいのね」「こういうケースでは、こう考えるのね」と。
でも、これが不思議なもので、知っていることと、できることって全然違うんですよね。
例えばソリューション・フォーカスト・セラピーについて教える場合、「解決像について質問しましょう」とか、「ミラクル・クエスチョンという質問があります」とか。説明を聞けば、それ自体はそんなに難しい話ではありません。
ところが実際のクライアントさんを前にして、「もし今夜、奇跡が起きて……」なんてやってみると、「あれ?」となる。全然話が広がらない。クライアントさんも「……はあ」みたいな顔をしている。こっちも「あれ、研修で聞いたときはもっと上手くいってたぞ」となる。
逆に、何気なく聞いた質問から、ものすごく話が展開することもあります。「あれ? なんか知らんけど、すごく上手くいったぞ」と。
たぶん臨床の学習って、この「あれ?」がものすごく大事なんですよね。
(ちなみに解決志向超基礎講座 では実践的な知として、ミラクルを小さくしていくなんてところまで細かく説明しております。)
知識と現実の間には「ズレ」がある
本や研修で得られる知識は、ある程度整理されています。でも実際の臨床場面は、そんなに整理されていません。相手によって違うし、その日の状態によっても違う。同じ質問をしても、昨日の人には上手くいったのに、今日の人には全然響かない。
つまり、知識を現場に持っていくと、必ず「思っていたのと違う」ということが起きます。僕は、むしろここからが臨床の勉強なんじゃないかと思っています。
「知る」ことが勉強の終わりではなくて、知ったことを試してみて、予想と現実がズレる。そのズレをもう一度考える。そこからようやく、その知識が自分のものになっていく。
「アウトプット」だけでは足りない
一般的な勉強法では、「インプットしたらアウトプットしましょう」と言われます。これはその通りだと思います。本を読んだら要約してみる。人に説明してみる。ブログに書いてみる。研究会で発表してみる。これだけでも、ただ読んで終わるよりずっと学習になります。
でも、心理臨床の場合は、もう一つ重要なアウトプットがあります。それが、実際にやってみることです。
学んだ質問を使ってみる。面接の構造を少し変えてみる。クライアントさんへの返し方を変えてみる。そして、「全然上手くいかなかった」「思っていたのと違った」「なぜか上手くいった」という経験をする。この経験が入って、初めて知識が「使えるもの」に変わり始めるんだと思います。
でも、一人で振り返るのは難しい
さらに問題があります。自分でやってみても、自分一人では何が起きたのかよく分からないんですよね。
「あの質問が良かったのかな」「いや、その前のやり取りが効いていたのかな」「そもそもクライアントさんが自分で変わり始めていただけなのかな」。臨床って、変数が多すぎます。
だから事例検討会やスーパービジョンが必要になります。「ここで、こういう質問をしたら、こんな返事が返ってきたんです」と話す。すると他の人から、「その質問より、その前にこんなやり取りをしていたことの方が重要じゃないですか?」と言われたりする。そこで、「ああ、なるほど。自分はそこを見てなかった」となる。
つまり、他者の視点を借りることで、自分の経験の見え方が変わる。これも臨床家が成長する上で、かなり重要なんじゃないかと思います。
もちろん、事例検討会やスーパービジョンまでいかなくてもいいんです。研修で学んだことについて誰かと話してみる。「この前こういうことがあったんだけど、あれって何だったんだろう」と同僚と話してみる。そういうちょっとしたディスカッションでも、自分一人では思いつかなかった見方が入ってきます。
「知る→やる→考える→話す→またやる」
だから僕は、臨床の学習って、こんなふうに循環していくものなんじゃないかと思っています。
知る → やってみる → ズレに気づく → 考える → 誰かと話す → またやってみる
本を読む。研修を見る。ウェビナーを聞く。そこで知ったことを実際の臨床で、小さく試してみる。すると「思ったようにならなかった」「予想外に上手くいった」ということが起きる。
そこで「あれは何だったんだろう」と振り返る。誰かとディスカッションする。事例検討会に出す。必要ならスーパービジョンを受ける。そして、そこで得た新しい見方を持って、もう一度現場に戻る。
このサイクルをぐるぐる回していくと、最初は本に書いてあった「借り物の知識」だったものが、少しずつ、「こういうときには、こう使うといい」「この人には、このまま使わない方がいい」「この質問をする前に、ここを確認した方がいい」という、実践的な臨床の知恵になっていくんじゃないでしょうか。
「詳しい人」と「できる人」は、少し違う
だから、ものすごくたくさん本を読んでいて、理論について何時間話せる人が、必ずしも臨床が上手いとは限りません。これは、その人に知識がないという話ではありません。むしろ知識はものすごくある。
ただ、知識を持っていることと、その場その場で知識を使えることは、別の能力なんだということです。
野球で言えば、バッティング理論についてものすごく詳しいことと、実際に150キロの球を打てることが違うのと似ています。もちろん、理論を知ることには意味があります。でも、臨床家として上達しようと思ったら、グラウンドに出ないといけない。
そこで失敗して、考えて、人に見てもらって、またやってみる。その繰り返しが必要になります。
だから、学習環境そのものを作る
そう考えると、大事なのは「どの研修を見るか」だけではなくなってきます。自分の生活の中に、この循環があるか。こっちの方が重要なのかもしれません。
研修を見る場所がある。試してみる臨床現場がある。「あれ、どういうことだったんだろう」と誰かと話せる場所がある。必要なら事例検討やスーパービジョンに持っていける。そして、また現場に戻る。
僕が研修や事例検討、スーパービジョンを組み合わせた場を作ろうとしているのも、たぶんこういう理由なんだと思います。
動画をたくさん置いて、「はい、勉強してください」では、たぶん足りない。見っぱなしにしない仕組みが必要なんですよね。
だから今後は、知識を得るウェビナーだけではなくて、「これ、実際どう使った?」「やってみて何が起きた?」「この考え方、みんなはどう理解してる?」みたいな、もう少し気軽にディスカッションできる場所も作っていきたいと思っています。
臨床の知識というのは、頭の中に保存しておくものというより、現場に持っていって、試して、考えて、作り直して、また持っていくものなのかもしれません。
その循環を何度も回しているうちに、「知っていること」が、いつの間にか「できること」に変わっている。そしてさらに、「その場に応じて使い分けられること」に変わっていく。
僕は、そのあたりに「臨床を学ぶ」ということの面白さがあるんじゃないかなと思っています。
こういう学びの場を作っています
そんなことを考えながら、現在「臨床実践ラボ」という学びの場を作っています。
臨床実践ラボでは、僕が行っている臨床心理学や解決志向、スクールカウンセリングなどのオンライン研修や事例検討会に参加できるほか、これまでの研修動画のアーカイブも見ることができます。また、必要なときには個別のスーパービジョンも会員料金で利用できます。
ただ、僕としては「たくさん研修動画が見られる場所」にしたいわけではありません。今回書いてきたような、学ぶ→現場で試す→振り返る→誰かと考える→また現場に戻る、というサイクルを回せる場所、実践力を身につけられる場所にしていきたいと思っています。
そして、もう少し気軽に臨床について考えたり、話したりする場所として、SubstackでPodcastとニュースレターも始めています。
こちらでは、カウンセリングについて日々考えていることや、スーパービジョン、研修、教育をしている中で感じた「臨床のちょっとしたコツ」のようなものを、ブログほどきれいにまとめすぎず、もう少し荒削りなまま話していこうと思っています。
ときには、家族療法やブリーフセラピー、ミルトン・エリクソンの本や事例を取り上げて、「この事例って何が起きているんだろう」と考えてみたり、知り合いの臨床家をゲストに呼んで話したりすることもできたらと思っています。
研修で体系的に学びたい方は臨床実践ラボへ。もう少し気軽に、日々の臨床について一緒に考えてみたい方はSubstackへ。
https://yurayura1992.substack.com/?r=946t8e&utm_campaign=pub-share-checklist
どちらも、「知識をたくさん持っている人を作る」というより、知ったことを現場に持ち帰り、自分なりの臨床の知恵に変えていくための場所にしていけたらと思っています。
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