なぜ正しい助言ほど受け入れられないのか?カウンセリングにおける抵抗処理と協働の考え方
目次
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- 助言には、相談者の現状に対する否定や評価として受け取られる可能性があります。
- 助言が正しいことと、相談者がその助言を受け入れられることは別の問題です。
- 助言に対する抵抗を相談者の特性だけで説明せず、カウンセラーとの相互作用の中で理解することが大切です。
- 目標や評価基準を共有し、相談者と協働して介入を検討することで、助言が機能しやすい関係をつくれる場合があります。
機能する助言を考えるうえでは、内容の正しさだけでなく、相談者との関係、変化を急がずに見守る姿勢、専門家としての評価と相談者の主体性のバランスが重要になります。
正しいことを言っているのに、なぜ受け入れてもらえないのか
カウンセリングをしていると、こちらとしては適切な助言をしたつもりなのに、相談者がなかなか受け入れてくれないことがあります。
例えば、子どもへの対応に悩んでいる保護者に対して、「もう少し子どもの気持ちを受け止めてあげるとよいかもしれませんね」と伝えたとします。助言の内容としては、特におかしなことを言っているわけではありません。
ところが、相談者が不機嫌になったり、反論してきたり、あるいは面接中には納得したように見えても、実際には何も変わらなかったりすることがあります。
カウンセラーとしては、「正しいことを伝えているのに、どうして受け入れてもらえないのだろう」と感じるかもしれません。しかし、ここには助言という行為そのものが持っている、少し厄介な構造があるように思います。
助言には、現状に対する否定や評価が含まれている
そもそも、なぜ私たちは助言をするのでしょうか。
基本的には、現状に何らかの問題や改善の余地があると考えるからです。現在のやり方よりも、別のやり方の方がよいのではないかと判断するからこそ、助言が生まれます。つまり、助言には何らかの評価が含まれているわけです。
もちろん、助言のすべてが現状の否定になるわけではありません。しかし、相談者の立場からすると、助言を受けることが「今までの自分のやり方は間違っていた」と認めることにつながってしまう場合があります。
例えば、保護者がこれまで一生懸命に子どもと関わってきたとします。悩みながら、試行錯誤しながら、何とかしようと努力してきたわけです。
そこに専門家から「こうした方がいいですよ」と言われると、たとえその助言が適切だったとしても、「今までの自分の対応はよくなかったと言われている」と感じるかもしれません。
面白いことに、助言が正しければ正しいほど、かえって受け入れにくくなることさえあります。正しい助言を受け入れることが、これまでの自分の間違いを認めることと結びついてしまうからです。
このように考えると、助言が受け入れられない理由を、単純に相談者の理解力や意欲の問題として捉えることはできません。
助言を受け入れる関係と、相談する関係は違う
もちろん、助言がすんなり受け入れられる場面もあります。
例えば、非常に尊敬している先生のところに、自分から教えを請いに行く場合です。あるいは、最初から指導を受けることを目的として契約している場合もそうでしょう。
こうした場面では、相手から評価されたり、修正点を指摘されたりすることが、ある程度想定されています。
しかし、カウンセリングに来る人が、必ずしも同じような気持ちでいるとは限りません。
相談者は、問題を解決したい、苦しい状況から少しでも楽になりたい、どうしたらよいのかわからないので相談したいと思って来ているのかもしれません。それは、カウンセラーの言うことを何でも受け入れて、指示された通りに頑張りたいということとは違います。
ところが、カウンセラーの側が「相談に来たのだから、こちらの助言を受け入れるのは当然だろう」と考えてしまうことがあります。
この認識のずれが、助言をめぐる抵抗を生み出す一つの要因になるのではないでしょうか。
専門家の権威によって助言が機能することもある
もう一つ考えておきたいのが、専門家としての権威の問題です。
医師や心理職など、専門的な資格や肩書を持っている人の助言は、それだけで受け入れられやすくなることがあります。
白衣を着ていることや、立派な経歴があること、社会的に評価されていることなども、相手の受け取り方に影響するかもしれません。
もちろん、専門性への信頼は悪いことではありません。相談者が安心して専門家の知識を活用できるのであれば、それは大切な資源になります。
ただ、ここで少し考えてみたいことがあります。
専門家の助言が受け入れられたとき、それは本当にその人の助言の技術が優れていたからなのでしょうか。もしかすると、専門家という立場そのものが機能していたのかもしれません。
権威によって助言が受け入れられる経験を繰り返していると、知らず知らずのうちに、その権威に頼って助言をするようになる可能性があります。
その結果、助言を受け入れない相談者に出会ったときに、「どうして言うことを聞かないのか」「失礼な人だ」と感じてしまうこともあるかもしれません。
一方で、権威を持つ人の言葉を素直に受け入れる人もいれば、権威的な関わり方に敏感で、かえって反発する人もいます。専門家としての権威が、どのように機能するかは相手によって違うわけです。
そして、これは決して権威的な性格のカウンセラーだけの問題ではありません。
臨床心理士や公認心理師という資格を持っているだけでも、相談者からすれば十分に権威のある存在として映ることがあります。
自分が意図していなくても、相手との関係にはそうした非対称性が生まれているかもしれません。だからこそ、カウンセラーは自分の専門性や権威が相手にどのような影響を与えているのかについて、ある程度自覚的である必要があると思います。
「抵抗が強い」という言葉で片づけてしまわない
助言が受け入れられなかったとき、カウンセラーはどのように考えるでしょうか。
「この人は抵抗が強い」「変わろうとする気持ちが弱い」「こちらの話を聞いてくれない」といった理解をすることもあるかもしれません。
しかし、ここには少し注意が必要です。
そもそも、その助言は相談者が求めていたものだったのでしょうか。相談者とカウンセラーの間で、何を目標とするのかが共有されていたのでしょうか。
あるいは、カウンセラーがよいと考える方向性と、相談者が望んでいる方向性が違っていたのかもしれません。
こうしたことを十分に検討しないまま、助言を受け入れないことを「抵抗」と呼んでしまうと、問題を相談者の側に置いてしまうことになります。
カウンセラーの関わり方によって生じた反応であっても、それを相談者の特性として説明できてしまうわけです。これは少し怖いことだと思います。
もちろん、相談者が変化に対して葛藤を抱えていたり、これまでのやり方を変えることに不安を感じていたりする場合もあるでしょう。
ただ、そのような場合であっても、抵抗を相談者の内側にある問題としてだけ捉える必要はありません。カウンセラーとのやりとりの中で、何が起きているのかを考えることが重要なのだと思います。
抵抗処理とは、相手を説得することではない
ここで、抵抗処理という考え方について整理してみたいと思います。
抵抗処理というと、相談者の抵抗をうまくかわして、こちらの助言を受け入れてもらうための技術のように聞こえるかもしれません。
しかし、私がここで考えている抵抗処理は、少し違います。
そもそも抵抗が生じにくいように、相談者との関係や、問題を扱う文脈そのものを組み立てていくことです。
例えば、カウンセラーが一方的に現状を評価して、「ここが問題なので、こうしてください」と伝えるのではなく、まず何を目標にするのかを相談者と一緒に考えます。
そのうえで、何が起きたら改善したと言えるのか、どのような変化を確認していくのかについても、一緒に決めていきます。
そして、実際に起きていることを共同で観察し、いくつかの仮説を立てながら、どのような介入が役立ちそうかを検討していきます。
こうしたプロセスを経ることで、カウンセラーの提案は、一方的な評価や指導とは違った意味を持つようになります。
目標と評価基準を共有することで、助言の意味が変わる
例えば、子どもへの対応に悩んでいる保護者との面接を考えてみましょう。
カウンセラーが最初から「子どもを叱る回数を減らしましょう」と伝えれば、それは保護者の現在の対応に対する評価として受け取られるかもしれません。
しかし、保護者自身が「子どもとの言い争いを減らしたい」と話しているのであれば、そこから一緒に考えていくことができます。
「どのような状態になったら、少しよくなったと言えそうですか」「最近、言い争いにならずに済んだことはありましたか」といった質問を通して、目標や評価基準を共有していきます。
そして、うまくいった場面とそうでなかった場面を比較しながら、何が違っていたのかを一緒に考えます。
その中で、「こういう対応を試してみる方法もありますが、どう思われますか」と提案するのであれば、同じ助言であっても意味が変わってきます。
カウンセラーが一方的に正解を教えるのではなく、相談者と一緒に立てた仮説に基づいて、新しい方法を検討しているからです。
これは解決志向アプローチにおける目標設定や例外探しともつながる考え方です。
ただし、目標を共有したからといって、必ず助言が受け入れられるわけではありません。実際の生活で実行できるかどうか、相談者にとって納得できる方法かどうかも重要になります。
助言の内容だけでなく、助言が置かれる文脈を考える
以前、助言の仕方についていろいろと工夫を考えたことがあります。
例えば、いきなり助言をするのではなく、まず相手の目標を確認すること。相談者がすでにできていることを確認すること。複数の選択肢を提示すること。そして、提案した方法について相手がどう思うかを確認することなどです。
こうした工夫は、単に助言を柔らかく伝えるためのものではありません。今回の話に引きつけて考えるなら、これらは抵抗処理の一部として理解することもできると思います。
カウンセリングにおいて重要なのは、助言の内容、つまりコンテンツの正しさだけではありません。その助言が、どのような治療関係の中で、どのような意味を持って伝えられるのかというコンテクストも重要です。
同じ言葉であっても、一方的な評価として伝えられる場合と、共同で検討してきた問題への提案として伝えられる場合とでは、相談者にとっての意味が違います。
さらに言えば、相談者が自分の考えを表明できることや、提案を断ったり修正したりできることも、協働的な関係をつくるうえでは大切です。
助言を受け入れてもらうことだけを目標にすると、こうした関係のあり方が見えにくくなってしまいます。
助言がうまくいかないときのチェックリスト
助言が機能しなかったと感じたときには、相談者の抵抗を評価する前に、次のような点を振り返ってみるとよいかもしれません。
- 相談者は、その場で助言や具体的な方法を求めていただろうか。
- 何を目標とするのか、相談者と共有できていただろうか。
- 改善を判断する基準は、カウンセラーが一方的に決めていなかっただろうか。
- 相談者がこれまで工夫してきたことや、すでにできていることを十分に理解していただろうか。
- 助言が、これまでの相談者の努力を否定するような意味になっていなかっただろうか。
- 相談者が提案に同意しないことや、別の方法を選ぶことができる関係だっただろうか。
- 助言が受け入れられなかった理由を、相談者の特性だけで説明していなかっただろうか。
こうした点を振り返ることは、相談者に対して遠慮し続けることとは違います。
必要な助言は行いながらも、その助言がどのように機能しているのかを観察し、必要に応じて関わり方を修正していくことが大切なのだと思います。
まとめ:機能する助言は、協働的な関係の中で生まれる
カウンセリングでは、助言の内容が正しいかどうかを考えることはもちろん大切です。しかし、それだけでは助言が機能するとは限りません。
助言には、現状に対する評価や否定として受け取られる可能性があります。そして、専門家という立場からの助言は、相談者との関係によって、支えにもなれば、反発や防衛的な反応を生むきっかけにもなります。
だからこそ、助言が受け入れられなかったときに、すぐに「抵抗が強い」と考えてしまうのではなく、その助言がどのような文脈で伝えられたのかを振り返ることが必要なのだと思います。
目標を共有し、評価基準を一緒に考え、現状を共同で観察し、仮説に基づいて介入を提案する。こうした関わり方は、助言をうまく伝えるための工夫であると同時に、抵抗が生じにくい治療的な文脈をつくることでもあります。
もちろん、協働的に関わったからといって、すべての助言が受け入れられるわけではありません。それでも、助言を受け入れない相談者を問題視する前に、カウンセラー自身が関係のつくり方を見直す余地はあるはずです。
助言の上手さとは、正しいことを伝える能力だけではなく、相談者と一緒に、その助言を検討できる関係をつくる能力でもあるのだと思います。
よくある質問(FAQ)
Q. カウンセリングでは、助言をしない方がよいのでしょうか?
A. いいえ。助言そのものが問題なのではありません。相談者が具体的な方法を求めている場合や、専門的な情報を提供することが役立つ場合には、積極的に助言することも必要です。ただし、その助言が相談者の目標と一致しているか、相談者にとって実行可能か、どのような意味で受け取られるかを考えることが大切です。
Q. 相談者が助言に反発した場合、どのように対応すればよいですか?
A. まずは、助言を受け入れてもらおうと説得を重ねるのではなく、相談者がどのように受け取ったのかを確認することが役立ちます。「少し違う感じがしましたか?」「今のお話は、あまりしっくりこなかったでしょうか」といった形で確認することもできます。反発を問題として扱うのではなく、相談者の考えや希望を理解するための情報として扱うことが重要です。
Q. 抵抗処理とは、相談者の抵抗をなくす技術なのでしょうか?
A. 必ずしもそうではありません。抵抗処理を、相談者を説得してカウンセラーの提案に従わせる技術として考えると、かえって抵抗を強めてしまうことがあります。むしろ、目標や評価基準を共有し、相談者が自分の考えを表明したり、提案を選択したりできる関係をつくることが重要です。抵抗を取り除くことよりも、抵抗が生じている相互作用を理解し、関わり方を調整することが大切だと思います。
Q. 相談者が「どうしたらいいですか?」と聞いてきた場合、すぐに助言してもよいのでしょうか?
A. もちろん、具体的な助言をすることが適切な場合もあります。ただ、「どうしたらいいですか?」という質問にも、具体的な方法を知りたい場合、専門家の判断を聞きたい場合、自分の考えを確認したい場合など、さまざまな意味があります。必要に応じて「具体的な方法をいくつか考えてみましょうか」「今のところ、ご自身ではどんな方法を考えていますか」と確認することで、相談者のニーズに合った対応を選びやすくなります。
Q. 相談者との協働を重視すると、カウンセラーが専門的な判断を伝えにくくなりませんか?
A. 協働することと、専門的な判断を控えることは同じではありません。カウンセラーは専門家として仮説を立て、必要な情報や介入方法を提案する役割を持っています。ただし、その判断を唯一の正解として押しつけるのではなく、相談者の理解や希望と照らし合わせながら検討することが大切です。専門性を発揮することと、相談者の主体性を尊重することは両立できると考えています。
Q. 助言が受け入れられなかった場合、カウンセラーの関わり方に問題があったと考えるべきでしょうか?
A. 必ずしもそうではありません。相談者の置かれている環境や、変化に伴う不安、提案された方法の実行可能性など、さまざまな要因が関係します。ただし、「相談者の抵抗が強いから」と結論づける前に、目標が共有されていたか、助言のタイミングは適切だったか、相談者のこれまでの努力を十分に理解できていたかを振り返ることには意味があります。助言が機能しなかったことも、次の介入を考えるための重要な情報になります。
10/30に開催されるスクールカウンセリング超基礎講座#4「子ども面接と保護者面接」では、特に保護者への「助言」の仕方について詳しくお話しさせていただくつもりです。
詳しい情報は以下のURLより。
https://pro.form-mailer.jp/lp/f065d020348409
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今回取り上げた助言や抵抗処理の問題は、知識として理解することと、実際の面接で使えることの間に大きな違いがあるテーマだと思います。
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実際のカウンセリングで「なぜ助言が受け入れられなかったのか」「どのように関わればよかったのか」と悩むこともあると思います。
こうした問題は、一般論として考えるだけでなく、具体的な面接場面を振り返りながら検討することで、理解が深まる場合があります。
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